ガルドハピッゲン〜ノルウェーで一番高い所

写真は後で掲載します

2006年5月25日、4連休初日。朝10時まで会社で残務整理を行い、それから出発。

17時に風の国への国境通過。21時に湖の国へ。入国時に「フィヨルドの国で1泊滞在、観光目的。」と言うと、そんなに短時間で来ることは信じられない。怪しすぎると入国拒否。風車の国で会社員をしている証拠を見せろと言われるが、証拠がない。困っていると車が会社名義であることから、車検証に会社の整備担当者の名刺が付いていて、これで審査官が納得、ようやく入国可となった。

湖の国のパーキングエリアで仮眠し、早朝にフィヨルドの国へ。

ここでも入国で時間がかかった。「ガルハピッゲン(この国最高峰)へ登るために来た」と言うと、審査官の応対は非常にフレンドリーだったが、風車の国から来た(麻薬)ことが問題なのか?排気ガスの対環境性能の問題なのか?車を徹底的に調べるため、車をガレージに入れ、別室へと案内された。別室には子供の気を紛らわすための玩具等が充実していた。ここで長いこと待たされたので仮眠した。その後無事開放。

オスロを越え、リレハンメルを越え、U字谷の底にある湖に沿った道を進み、その谷に繋がる別のU字谷を登った。ガルドハピッゲンの登山口、U字谷の中央部にある山小屋(スピターステューレン)ヘ着いたのが13時。走行距離1965km、風車の国を出発してから計27時間後のことだった。

山小屋でガルドハピッゲンへの登り方を尋ねると、ガイドは不要、たくさん人が登っているので、足跡をたどれば簡単だとのこと。頂上近くは氷河の端を歩くが、道標が付けてあるからそれを忠実にたどることだけが注意事項だった。(一般的に氷河にはヒドゥンクレバス(雪で割れ目が隠されたクレバス)があるため、勝手に歩くとこれを踏み抜く恐れがある)。

ここから頂上までは高低差約1400mあり、この日の登頂は難しいため、それは翌日することにして、山小屋周辺を散策した。ここではユキノシタ科のパープル・サクサフリッジと春アネモネが咲いていたが、その他の植物はまだ発芽したばかりの早春の状態だった。気温は低く、時折雪がちらついていた。

雷鳥(現地語でリィィーバと呼ぶ、リィィーは強烈な巻き舌の”R”の発音)は白い羽や木質の糞があちこちに落ちていて、生息数は多いようだったが、会うことができなかった。

オガワコマドリも多かった(何年か前に男里川河口で出会って以来の再会だったが、いるところにはいるものだ)。

宿の夕食は、野菜のクリームスープ、白身魚のクリームソース、デザートにアップルケーキと、豪華で美味しかった。

翌日、朝食と昼食用にサンドイッチをセルフサービスで作り、快晴の中を登った。

標高1,350mからは完全に雪に斜面は覆われて、その中を登った。

アイゼンの必要はなかったが、時々足元の雪が崩れスリップしたので、アイゼンを使用しゆっくりと登った(氷河を想定していたので、アイゼンとピッケルは持参していた)。

途中、ノルウェー人の美女3人グループに追い着かれた。彼らはスリップすることもなく、軽やかに、まるで平地を歩くように、というよりは飛ぶような凄いスピードで登って来た。息は荒かったが、呼吸することを楽しむように、さも気持ち良さそうだった。どうしてそんなに早く登るのか聞いてみたが、息を切らして微笑みながら彼女は答えた。「運動するのは気持ちがいいわ。」「あなたはどこから来たの?」「日本。でも今はオランダに住んでいるから、今日はオランダから。」「ま〜ぁ。遠くから来たのね。大きなカメラね。自分の写真は撮っておいた方がいいわよ。」彼女は僕のカメラを使って僕の写真を撮ってくれた。実に笑顔のきれいな北欧美人たちだった。彼女達の写真を撮らせてもらいたかったが機会を逸した。彼女たちは雪を崩すことなく、軽い足取りでするすると登っていってしまった。その後、たくさんのノルウェー人たちが走るように僕を追い抜いていった。ノルウェーがトリノ五輪でノルディックを圧勝した理由がよく判った。選手層がとてつもなく厚そうだ。僕を抜いてゆくとき、ただ「ハーイ。」というだけでなく、必ずみんな「どこから来たの?」「いい写真は撮れたかい?」何かしら僕に聞いてきた。とても人懐っこい人々だった。

 皆、息を切らしても、疲れているような人は全くいなかった。疲労困憊し、重々しく足を一歩一歩動かすのは僕ひとりだった。

頂上が見えたのはピークをいくつか越え、随分登った後だった。

途中からは僕を追い抜いてゆく時に、僕にかける言葉が変わった。皆、心配そうに「Are you OK? (大丈夫か?)」と声をかけてくれるようになっていた。相当疲れが表情にも出ていたのだろう。歩くと足に乳酸が溜まるのか痛みを感じるようになった。数十歩歩いては数分休み、また数十歩歩いては数分休むようになってしまった。

頂上近くは山小屋で聞いたとおり、白樺の枝が10m間隔程に立ててあり、これらに沿って登った。時折吹く強風が粉雪を舞い上がらせたが、雪はサラサラで、融ける様相は全くなかった。自分の足跡はあっという間に風で吹き消され、シュカブラが形成された。

頂上直下にはガラスを多用したモダンな小屋があり、夏季は宿泊できるとのことだった。

標高2469m、頂上からのパノラマは最高だった。たくさんの氷河をかかえた山々。この素晴らしい雄大な景色は生涯忘れることがないだろう。

下りは楽だった。みんな尻に敷く小さなソリのようなものを持ってきていて滑って降りる人が殆どだった。下ってゆくときも皆、愛想が良かった。数十メートル離れたところを降りて行っても、皆、大きく手を振ってくれた。ノルウェー人は人懐こくて、明るくて純朴で素晴らしい。僕にはそんなステレオタイプが形成された。

 僕も皆の真似をしてシリセードで雪面を下った。足が引っかからないように高く上げ、尻から背中を使って滑って降りた。足を上げ続けるのは腹筋の負担になって、途中から苦しくなったが、自分の手で膝を引き上げると楽に滑ることができるようになった。スピードが出て面白かった。山小屋に戻ったのは午後8時近かった。普通だったらここでもう1泊したいところだったが、残された休日は少なかったので、残念だが、そのまま帰った。途中、車で仮眠して、帰りも計27時間かけて無事帰着。