行間12月号 Vol.1
招かれなかった女たち 森瑶子
集英社文庫1985
■あらすじ
画学生のテオ、詩人のムッシュウ、そしてムッシュウの妻ミエはある遊びを計画する。自分たちの書いたシナリオ通りの恋物語を、それがシナリオのある芝居であることを隠して、1人の女学生を相手に演じようというのだ。計画通りに芸大生ヨーコはムッシュウと恋に落ちるが…。ボーヴォワールの小説を下敷きにした劇の幕が静かに開き、1年をかけて演じられていく。短編集です。
「それにしてもミエ、何時みてもあなたは奇麗な手をしているね、今夜、俺と寝ない?」
「女に興味ないくせに、いいのよ、テオ、心にもないこと言わなくても。それにあなたは絵の具臭くて、私の好みじゃないの。ムッシュウを口説いたら?」
■この話は
20枚弱の短編で、とても押さえた描写なのだが、中身は濃い。小説中にも出てくるのだがテーマは「傷心と空虚」。昔読んだ時はまったく理解できない世界だったが、最近読み返したらほんの少しはわかった気がする。背景がオシャレで、約30年前の東京を垣間見れる。スノッブなの。ゲイ描写は極めて自然で作品に溶け込んでいる。たいして出てこないけど、テオがゲイでなければ話が成り立たないことも確か。
愉楽の園 宮本輝
文春文庫1989
■あらすじ
植物状態になってしまった指揮者の恋人を置いてタイにやってきた恵子はいつしかタイ政府高官の愛人となり、タイで数年を過ごすことになる。日本人・野口が現れたことをきっかけに、恵子の前にタイの魔力と人々の裏の顔が見えてくるようになる。蜘蛛の巣のような人間関係に絡めとられていく恵子が最後に出す結論は…。
「彼は、まだぼくの手も握れないくらい純情です。気も狂わんばかりに、ぼくに愛されたがっています。あの蛇の相手をすることは、彼にとってどんなに苦痛だったか、マダムには、死んでも理解できないでしょうね。でも、彼は、愛する男のために、それをやったんです」
「マイは、マダムのことを嫌いでした。マダムは僕の夢の中でのセックスの相手だったから。だから、エカチャイにとったら、マダムはいつも恋敵です。あの可哀相な、みんなに嫌われてる、素敵なホモ……」
■この話は
うーん。タイを舞台に描かれた小説…って以外に解説できないほど複雑。タイがとても魅力的に書かれていること、人が見せない裏の顔、に焦点を当てていること以外文章化できない。裏、というのは何の裏を指しててどっちが裏なんだろう?裏、というのがタイでは表なの?異文化の思想を明確な文章にするのではなくストーリーに溶け込ませてあって知らぬ間に引き込まれる。強いて言うならテーマは人生の悲哀、かしら?理解しようとするよりもむしろ芝居を見るように主人公に感情移入して読んだほうがいいかも。おもしろいです。エカチャイというホモセクシャルの男に対する恵子の心の動きの変遷が興味深い。テアンというタイ人(自称ノンケ、でも誰とでも、男とでも寝る)の後半部分のセリフが最も「宮本輝の書くタイ人」を表していると思う。ああ、実際はどうなのかタイに行ってこの目と耳で確認したいわ。おすすめ。
●おまけ
心狸学・社怪学 筒井康隆
講談社文庫1975
■あらすじ
心理学、社会学をタイトルにした短編集。
■この話は
筒井康隆が大量に書いてた時期の短編集の1つ。ホモ用ダッチワイフ「ホモット」とか出てくる。「エディプス・コンプレックス」ではオチがホモネタ。