======================= 書名:「科学者の熱い心 ― その知られざる素顔」 出版社:講談社ブルーバックス 1999 著者:L.ウォルパート A.リチャーズ (青木薫・近藤修 訳) 区分:一般書 \1400 疲れた時など読んでみると気分転換になる(かもしれない)一冊です。世界の一流科 学者23人の生い立ち、生活、研究などについて英国BBCラジオの対談を基にして書か れたものであり、主に、物理学者、化学者、生物学者をとりあげている。ノーベル賞 受賞者もいるし、フリーランスの科学者もいる。一般に、科学者、特に一流の科学者 とはどういうものか、普段何を考え、どんな生活をしているかなどを知る機会は少な い。(日本にも研究者はいる。しかし果たして日本に一流の科学者がいるかどうか。 もしいたとしてもごく僅かで、われわれが接することは稀であろう。)彼らの話を通 して科学の奥深さや楽しさ、人生の多様性などが感じ取れると思う。 また、やや類 似の書として、「世界の知性科学を語る(日経サイエンス社 1995)」なども世界の 科学界で活躍する(した)物理学者、化学者、生物学者、数学者の仕事をエピソード 交えて紹介してあり、相補的である。 ======================= 書名:「何が科学をつぶすのか?」 出版社:太陽書房 2002 著者:井口和基 区分:一般書 \1700 著者はフリーランスの理論物理学者。大学や研究機関に属さずともアクティブに研究 活動をし、欧米の学術雑誌に多数論文を投稿している。また、日本と米国の大学院博 士課程を修了しておりそれぞれの教育制度の実態(特にその欠点)をよく理解してい る。この本では著者の経験したことや観察した事実を分析し、何が原因でそれが引き 起こされたのかを、近代科学の始まる明治期から歴史的経緯を参照しつつ、自分なり の視点で整理してある。さらに同様の手法で、社会の他の事象を検証するという科学 的作業を行っている。研究者を「パイオニア」と「ソフィスト」に類別するなどもユ ニークな試みではなかろうか。研究に興味がある人、将来、大学院で研究したい、科 学者になりたい、米国の大学院に入学したいという学生方は、是非読んでみてほし い。 また、著者のウェブサイト(http://www.stannet.ne.jp/kazumoto/)にも、日本社会 や日本の科学界に対する様々な論評や考察があり参考になると思う。 ===================== 書名:「検証 なぜ日本の科学者は報われないのか」 出版社:文一総合出版 2002 著者:サミュエル・コールマン(岩館葉子 訳) 区分:一般書 \2400 日本の科学者および研究者社会の問題を、米国人の文化人類学者が鮮明に表現してい る。著者は生物学や医学など主にライフサイエンス研究に焦点を当て、研究環境や研 究経歴、評価システムなどを米国や西欧の現状と比較し、日本のシステムの問題点を 明確にしている。蛋白工学研究所と大阪バイオサイエンス研究所を中心に、私立医 大、農水省食品総合研究所などでフィールドワークを行い、訪問した大学などでの聞 き取りの内容と調査の結果が詳細に記述されている。分析では、米国型の研究成果を 出して助成金を手に入れ、それを原資に再び研究し実績をつくり研究費を得る「クレ ジットサイクル」というシステムを基本に、いかに日本型システム(中央集権制、権 威主義、年功序列、終身雇用、など)がサイクルを有効に機能させていないかを述べ ている。私も、米国式が好きという訳ではないが、日本の現状よりははるかにbetter だと思う。 また、著者は日本人でもなくバイオや理工系分野とは何の利害関係のない研究者であ るが、その分析結果や指摘は今回著書を紹介した井口氏(彼もフリ−ランスゆえ何の 利害も無い)と共通点が多い。つまり、研究分野に関わらず日本の大学、研究所など に共通した問題点をあらわに指摘しているといえる。 それにしても、文化人類学者が調査研究の場として日本の科学界を選び、実際に フィールドワークを行うということは、いかに日本の科学界が不思議なブラックボッ クスに写るのかを如実に表しているともいえるのではないか。 ===================== 書名:「クロス・カレント」 出版社:新森書房 1993 著者:ロバート・O・ベッカー(船渡俊介 訳) 区分:一般書 電磁波の被曝問題が議論されだして約20年が経ち、特に最近では特に携帯電話の発す る電磁波についての話題をよく耳にするようになった。本書は「環境と生物」という 科学的視点をもちながら、電磁波と癌、脳腫瘍、精神疾患などの発生率との因果関係 を、データをもとに考察しその危険性を訴えている。また、そのような危険性と電気 機器の使用による生活上の利便性とのバランスの問題についても考察されている。本 書が出版され10年以上経つが、電磁波の危険性の問題は完全に証明されているわけで はない。しかし、薬害エイズの問題、BSD問題、最近の東電のトラブル隠し事件など を考えれば、大企業や政府や大学などの権威に頼らず、一人一人の市民が注意深く目 を光らせるべき問題であることは明らかである。十分な研究の結果、万が一、電磁波 が人体等に悪影響を及ぼさないという事態になっても決して困るものではない。 最 近は「マイナスイオン効果」などをうたった怪しげな商品を売り出す大企業も多い。 企業にも研究者がいるはずだが科学的根拠に乏しいことを商品として堂々と宣伝する など、恐ろしいことだと思う。消費者の側も真実を見分ける目を養うことが重要であ ろう。 |