物理学には様々な研究分野(たとえば,半導体物理,金属物理,低温物理, 物性物理, 統計物理,素粒子物理,宇宙物理,等)があり、それぞれ理論と実験に 分けられる。 当研究室では主に,物質の示す多様なマクロな性質を原子分子の従う ミクロな力学法則に基づき明らかにしていく, 物性物理学及び統 計物理学の理論的研究 (計算機実験を含む)をおこなっています。以下にその主なテーマを 簡単に列挙します。
自然界における結晶中には必ず不純物や格子欠陥等の乱れが存在し,それが 重要な役割をはたすことが多い。たとえば,アモルファス,不純物半導体,液体 金属,不純物磁性体 等である。これらの乱れた体系は,構造が一通りでないので, 多種の構造に関する統計的な取り扱いが必要になる。それらの乱れは,電子状態, 輸送現象,光散乱,格子振動,等の様々な物理的性質が示す多様性の原因を与え てくれる。具体的には,低次元(主に一次元)の完全結晶でない規則系である準 結晶の物性,構造的長距離相関の強いランダム系を中心に研究している。
(1) 相関の強いランダム系の物性(2) 一次元準結晶の物性
準結晶は,1984年の5回対称性を示す結晶(準結晶)の(物理学史上重大な)
発見以来,盛んに研究されている。当研究室ではフィボナッチ列に従い一次元的に並んだ
ポテンシャル中の電子状態や電気抵抗の示す特異な性質(例えば、オームの法則が成り立たない)を理論的に研究している。
(3) その他(量子細線における伝導,量子拡散の特徴,,,,)
物質のマクロな性質である比熱,電気伝導,光学的応答,磁性等の起源を 原子や分子の従うミクロな力学法則にもとづき解明していくものが統計物理学で ある。この統計物理学の成立にはエルゴード性等の様々な仮説が必要とされ, 特殊な場合をのぞき,いまだにはっきりしない事も多い。 そこで,ミクロな法則 からマクロな系の従う法則に移り変わる過渡的領域(メソスコ ピック領域)に興味をもち,その様子を計算機実験や理論的モデルにもと づいて研究している。
(1) 前駆ガウス過程
古典粒子の拡散は,十分時間が経つとガウス過程(ブラウン運動)に従うと
いうことはよく知られている。しかし,どのような状況を経て
そのブラウン運動にたどりつくのか,またその途中で見られる特異な振
る舞いは何か等は,まだ十分にわかっているとはいえない。そこで,そ
の過渡現象を,主に分子動力学法を用いて研究している。
(2) 一次元レナードジョーンズ系
自由度(粒子数)が増えるとマクロな現象が現れるが,どの位の自由度から
マクロになるのか,またその性質は系の他の条件(エネルギーや密度)にどの程度
依存するのか,等を,典型的モデルポテンシャル(モース,レナードジョーンズ
等) を用いて研究している。条件によっては様々な複雑な振る舞いが観測され,
複雑系や交通渋滞モデルと共通の数理を持っている。
(3) その他(非定常揺らぎの起源,スローダイナミックス,,,)
従来,物理学の理論においては,熱浴が導入され,その熱浴の働きを暗黙の うちに仮定することにより,一見首尾一貫した理論を与えてきた。それが,線形 応答理論である。また,その理論が適応される現象においても散逸に関与する 自由度がどこまでか等を気にせずとも,系の自由度の大きさからその仮定が十分 成立している領域を問題にしていた。しかし,少数自由度の閉じた量子系(たとえば, 多原子分子,マイクロクラスター)における,散逸の効果を考えるとき, 散逸の自己組織化とでもいうべき,記憶喪失のメカニズムが 問題となる。オームの法則の起源を明らかにしたい。
(1) コヒーレントに変動する場における量子拡散
ランダムに変動する媒質中での量子波束の拡散現象は良く知られている。
しかし,完全にコヒーレントに(規則的に)変動する媒質中でのそれは,殆どわかっていない。
交流電場中の伝導もミクロな立場からの理解は不十分であるといえる。そこで,
多色な摂動下での一次元ランダム系の量子拡散を研究している。
(2) 閉じた少数自由度量子系における非可逆性
非可逆性が物理現象として現れるときは,エネルギーの一方向への流れとしておこる。
そこで,閉じた少数自由度の量子系のモデルとして,有限個の調和振動子と結合した
一次元ランダム系を考え,エネルギーの流れの様子を調べている。数自由度の量子系
では古典カオスが回復するという,量子カオスの問題
とも深い関係がある。