ネットワークあれこれ(2008.11記、2009.7改)

ネットワークとは網状に張り巡らされた構造体や、ものごとの形態をいう.ネットワークを構成する各要素のことをノード(要素)、 ノード間をつなぐ線のことをリンク(次数)と言う。 概念的には、ツリー構造や円構造などのように、網状でなくとも ノードとリンクにより構成される構造体すべてを包含する。 ネットワークの例として、LAN(ローカルエリアネットワーク(Local Area Network)の略称)、 食物網、交通網、電力網、人間関係などが容易に想起されるであろう。 ノードへのリンクのつながり方で様々なタイプのネットワークを 分類できる。(数学ではグラフ理論として研究されてきた。)

古くから、完全グラフ(全てのノード同士がリンクでつながっているもの)や ランダムグラフ(どのノードも繋ぐか繋がらないかを一定の確率で決めたもの)が主に研究の対象であったが、近年は、Small World NetworkとScale Free Networkなどの 実ネットワークや複雑ネットワークが盛んに研究されている。 Scale Free Networkは、 各ノードのリンク数の分布(次数分布)べき乗則(Power Law) に従うという特徴を持っている。 非常に多くのリンクを持つ少数のハブ(hub node)が存在するし、 ネットワークの直径が短くなる。 Small World Networkは、ノードが密接に結びついたクラスタと、 それぞれのクラスタを繋ぐ少数のリンクで特徴づけられる。 より詳しくは、下に挙げた一般向けの解説書などを参照されたい。


[1]6次の隔たり
初対面の人と話した時、自分と共通の知人が居て、 「世間は狭い(It's a small world!)」と言ったりする。 社会学ではスモールワールド現象といい、 全く関係のない人同士が かなり少ない人数を介して繋がっている可能性が示唆されている。 ミルグラムの実験からは、 約6人を介して全ての人が繋がっている(6次の隔たり)。 (手紙も用いたミルグラムの実験にはかなり条件や制約があるが、 全く任意に人を選んでも約20人を介せば 誰とでも繋がるといわれている。)

ここでは、一見無関係に見える自分と夏目漱石との繋がりを考えてみる。 山田弘明(自分)---合田正毅(1943-現在)---堀淳一(1926-現在)「エッセイスト、元北大教授、人生二毛作」---中谷宇吉郎(1900-1962)「物理学者、随筆家、元北大教授」--- 寺田寅彦「物理学者」---夏目漱石(1867-1916)と、師弟関係や共同研究者という濃いもので繋いでみても、5次で繋がることがわかる。 また、堀淳一の姉が朝永振一郎の妻なので、 朝永振一郎---湯川秀樹ながハブとなり物理の様々な分野への繋がりも分岐する。

人間同士の繋がり関係で注意することは、時間的隔たり(生きている時代)が大きく異なると繋がりを見つけにくい という点である。 上記の例ではたまたま漱石との繋がりがあったが、たとえば私と出身地(現、出雲埼町)が同じである良寛(1758-1831)との繋がりを見出すことは困難である。 繋がりうるかも知れない経路は、お寺(の住職)を介してのものであろう。 私が何度か山登りの始点に使った村松の慈光寺は、良寛も訪れていたという。(森鴎外の仏教の師匠もここで修行したという寺。) また、年に数度は訪れる五合庵のある国上寺あたりから繋がる可能性もある。さらに、リンクには、ノード間の関係により、方向付きのもの(矢印)と方向のないもの(両方向矢印)がある。 上記の人間の繋がりの例は、互いに知って認識している後者の場合である。


以下のものもネットワーク表現が可能である。
[2]双六
古くから世界中にあるゲームの双六もnetwork表現が可能である。日本書紀にも「双六は賭博性があり、仏門にふさわしくない」というお布れに関する記述がある。各コマが要素(ノード)とみたて、次に進めるコマと方向付きのリンクで構成される。 例えば、日本十五少年雙六 遊廓双六 女子家庭双六 世界第一勉強家の親玉大阪平民館發行教育双語六、など様々な双六を以下のサイトで見ることができる。

https://library.u-gakugei.ac.jp/etopia/sugoroku.html

この中から、日本十五少年雙六(図2-1)、 世界第一勉強家の親玉大阪平民館發行教育双語六(図2-2)、御慕子双六(図2-3)、のネットワーク表現をしたものが以下である。

図2-1

図2-2

図2-3
[3]七橋問題
グラフ理論の有用性を見る例として、「ケーニッヒスベルグの橋」がしばしば取り上げられる。川が交鎖した周辺に橋が7つ架かっている。
この7つの橋を全部、ただの一回だけで渡れるだろうか、という問題である(図3-1)。 これのネットワーク表現(グラフ)が図3-2である。
(答えは、不可能である。)

図3-1

図3-2
類似の問題は日本でもあった。江戸後期の越後の和算家、山口坎山(関流正統七伝)が全国行脚で大阪の橋に関して、
「浪華二十八橋知恵渡」(図3-3)で同様のことを議論している。これのネットワーク表現(グラフ)が図3-4である。

図3-3

図3-4
●今野紀雄、町田拓也「よくわかる複雑ネットワーク」(秀和システム 2008)
●増田直紀「私たちはどうつながっているのか」(中央公論新社 2007)
●増田直紀、今野紀雄「「複雑ネットワーク」とは何か」 (講談社 2006)
●佐藤 健一 「続・和算を教え歩いた男―日本人と数 」(東洋書店 2003)