「湯たんぽとエネルギー問題」 

正月に実家に帰省した際、部屋が寒いため湯たんぽを使うようにすすめられた。以前は面倒くさいという感覚があったが、使ってみると便利で効率の良い暖房器具だと思い、すぐに我が家でも購入しようとした。しかし、周辺のホームセンターやドラッグストア、ショッピングセンターでは、どこでも湯たんぽが売り切れになっていた。どうも停電の影響らしい。

先だっての2005年12月22日冬至の日、新潟県内の8割の地域で長時間の停電があった。原因は、日本海側を中心の大雪や暴風による、(1)強風で、塩分を含んだ氷雪が電線に付着してショート (2)電線同士が揺れ、近づきすぎてショートした――ということらしい。自分としては、部屋でジッとしていても寒いので、掃除をしたり、暴風雪のなかをジョギングしたりして暖をとったりもした。そのときにある人たちは、先人の知恵である冬期の熱源としての「湯たんぽ」を思い出し、ホームセンターに買いに走った、ということであろう。

こんなとき、電気の有りがたさや便利さよりも、オール電化の住宅等に現れる単一的エネルギーに頼る生活の脆弱さを感じざるをえない。停電があれば一瞬にして電気に頼る生活は寸断され、最後は昔からの知恵に頼らざるを得なくなるのではないか。 そこで、「湯たんぽ」について考えてみよう。

昔から使われている湯たんぽの種類として、(1)金属製湯たんぽ、 (2)陶器製湯たんぽ、があり、現在良く使われるものに (3)プラスチック製湯たんぽ、元々欧米で使われていた(3)ゴム製湯たんぽ、がある。それぞれに利点、欠点があり用途により使い分けがあるようだ。商売柄、暖房器具の熱伝導という視点で考えようとしたが、あまり意味はないようである。ちなみに、熱伝導率[cal/s.cm.度C]は、常温で次のようになる。
空気
  0度C 0.0000568
 28度C  0.0000084
水    0.00119
断熱材
 ガラス 0.02-0.025
 コルク  0.001
 コンクーリート 0.025
固体
 Al  0.5
Cu  0.95
Ti  0.047
グラファイト(⊥) 0.01357
グラファイト(//) 4.66666
樹脂(ゴム、プラスチック) 0.000156-0.000277
 
陶器  0.00238-0.00381
パイレックスガラス 0.00408

固体などのデータは[W/(s・m・度C)]を単位に表示されている場合も多いので、そのときは(W=J/s, 1cal=4.2J)などを用いて換算して比べればよい。

どれも容器にお湯を入れ、周囲をタオルなどで幾重にも覆い、温度調節の工夫をする。したがって、容器の熱的性質はさほど問題ではなく、用途に合わせた使いやすさが重視される。(そういう意味では、熱伝導率以外のより多様な物性を考慮することに対応する。)たとえば、金属製は、冷めた後も中の水を入れ替えずにそのまま石油ストーブの上などで加熱して高温状態を作ることができる一方、メンテナンスとして錆びないように気をつけなければならない。陶器製は冷めたお湯を洗顔などに再利用できるが、移動に対し注意と手間がかかるし、割れることがある。ゴム製は肌触りが良く冷水を入れて水枕としても利用できるが、日本で入手するには値段が高い。(英国などではゴム製が主流で廉価である。) 私が使っているのは、一番安く入手できるプラスチック製(800円くらい)である。軽く、表面が高温になりにくいので扱いやすい。いずれの湯たんぽも70-80度のお湯を入れ布団の中に入れておいた場合12時間以上は温かいので、お湯を沸かすことさえできれば、十分暖房器具としても機能する。 生態に関してなにより重要な点として、湯たんぽは電気器具と異なり「電磁波がでない」ことが挙げられる。

停電などをきっかけにして、「熱と材料の問題」、さらに「エネルギー問題」などを考えることに結びつけ、「身の回りの現象と科学」さらに「歴史的生活文化」考えることができる。その意味では、1年に数回、長時間の全域停電も悪くはないと思う。

ちなみに、煉瓦なども屋根の材料としてその熱的性質は生活に強く関わる。煉瓦や粘土は、組成元素的には、陶器とそれほどかわらない。従って、内在する気孔が多ければ多い程、熱伝導率は小さくなることなどが、空気の熱伝導率の低さから容易に推測できる。

また、暖房器具を考えた場合、熱源から熱を室内に送る経路などで熱の蓄積や散逸を考慮した設計が必要になる。伝導性の低い空気の層により熱が溜まり、逆伝導などが起るとエネルギー効率は悪くなる。

同様なことが、パソコンや携帯電話などの情報通信などにおいても、技術上の大きな問題点となる。作動時に内部で発生する熱の処理だ。各種精密機器が高度化すればするほど発熱が増え、誤作動や故障などのトラブルにつながりかねない。最近、熱伝導率が従来の合成樹脂の100倍という、高熱伝導率のプラスチックが開発されパソコンや携帯電話、各種通信機器やディスプレーなどに実用が検討されている。(2006.1)

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