「固有種新潟」

人は誰もが、それぞれ自分の存在しているところを独特で固有なものだと感じているだろう。私は新潟生まれの新潟育ちなので、新潟が日本でいちばん個性的なところだと感じている。そのいくつかを挙げてみよう。
  「新潟は男と杉が育たない」と言われている。男の話は別として、杉が育たないのは、冬場にさしている傘がたびたび壊れてしまうほどの強風のことを思えば、わかる節もあるだろう。しかし、実際にこの杉というのは、「全国植樹祭(*1)」などによる先見の無い国土政策などに基づき植えられたものに対してのことを意味しているに違いない、と私は考えている。そのことは、現在も新潟が天然林に対する人工林の割合が、全国で最も少ない県であることからも推察できる。実際、新潟には巨木や原生林が多く存在している。例えば、最近写真で紹介され注目を集めている、佐渡の新潟大学演習林にある巨大杉は、樹齢3000-6000年とも言われ、屋久島にある縄文杉に勝るとも劣らないようだ。また、旧三川村にある将軍杉は、最近の環境省の調査では幹周19.31mで、縄文杉の16.1mを抜いて全国一だ。

------------------------------
   (*1)「全国植樹祭」は、戦後「緑豊かな災害の無い国土を願って」というスローガンで、
     たびたび、天皇臨席のもと全国各地で行われていた。新潟県でも昭和45年に
     胎内平で開催された。現在、戦後から植樹され育成された人工林は頻繁に災害を
     引き起こす原因になっている。針葉樹からなる人工林は天然の広葉樹林に比べ、
     根の張りも浅く保水力が弱いからである。まことに皮肉な現状である。
------------------------------

私たちに身近な動物であるモグラは、現在日本に6種存在しており、その全てが固有種で多様性は世界一だ(*2)。日本では主に、西はコウベモグラが占め、東はアズマモグラが占めている。最近のDNA解析で発見されたことだが、新潟(越後)に多いエチゴモグラ、佐渡のサドモグラは、アズマモグラとは生殖的に隔離された別種である。つまり、日本にいる6種のうち2種は新潟県内のみにいるということになる。おそらく、これらは地理的要因、つまり新潟が自然境界である山に囲まれていることに大きく起因するのであろう(*3)。私は、子どもの頃から新潟を東北の一部とする位置づけに対し、非常に違和感があった。上記のことは、この私の個人的感覚とも合致するのである。新潟の日常的地域分類の仕方は多様である。例えば、電力会社は東北電力、都市ガスは北陸ガス、NTTの携帯電話はドコモ中央の管内であり、各種スポーツ大会などは北信越ブロックや関東甲信越ブロックに入ることがある。東北とも北陸ともいえない。実際、道州制の議論における位置づけも微妙なもので、東北とも北陸にも、どこにも入らない(*4)。これらのことは、逆の見方をすれば、現在の上越、中越、下越、佐渡、の4地方からなる新潟県の中に全ての地域の要素が存在していると見なすことを可能にしている。上越の糸魚川などは富山や長野との繋がりの方が強いし、下越の山北町や朝日村などは山形県の鶴岡や酒田との繋がりが強い。さらに、下越の阿賀町などは、もともと会津藩の領土であったし、実際、今も会津との繋がりは強い。また、湯沢のスキー場のマンションは関東人の所有者も多いようだ。つまり、新潟は、一県で州を作っているようなものと見てもいいと思う。

------------------------------
   (*2)富山大学の横山氏によると、ヒミズなどを含めると8種となる。(「自然保護」No.500
      (2007),p44。)もちろん、新潟にはアズマモグラが生息する地域もある。

   (*3)地理的環境ということでは、新潟に地震が多いということにつながる部分もある。糸
     魚川-静岡構造線によるフォッサマグナや地質学的歪集中帯およびGPSによる
     測地学的歪集中帯である新潟・神戸歪集中帯の3つの要素が重なり合っている地域
     としての新潟が存在する。(ト部厚志氏(新潟大学)の話を参考にした。)

   (*4)ちなみに日本物理学会での支部の構成は、東北支部、北陸支部、関東支部の他に、
       新潟支部がある。単独都道府県での支部の構成は新潟と北海道だけである。
------------------------------

最後に、気候という視点から新潟の位置づけを見てみよう。天気予報、特にTVの週間天気予報を見ると、新潟と札幌の天気が他の地域と違っている場合が多いことは、新潟に住んでいなくても、少し注意して見ていれば感じることだろう。特に、秋から冬にかけては一週間、雪か曇りの日が続くのである。(しかしながら、新潟、特に新潟市に住んでいる人なら感じるであろうことだが、新潟市の天気予報があまり当たらない。これは、佐渡が存在することにより、乱流(*5)ができて予想を狂わせるという見方がある。興味深いが、どうであろうか。)

------------------------------
   (*5)流れに垂直に置かれた物体の後方に、伴流の流体力学的不安定性による
      発生する、2列の渦列をカルマン渦という。ちなみに、風に吹かれる電線が
      ピューピュー鳴るのもカルマン渦の作用であるし、風が橋に当たり発生した
      カルマン渦の固有振動数が、橋の捻じれ振動の固有振動数と同じである場合、
      生じた渦励振は橋を破壊する。 また、鳴門のうず潮もカルマン渦である。
      そしてさらに流れが速くなると、乱流へと変化していく。血圧の測定も、
      狭められた動脈で生じるカルマン渦が血管を叩く乱流音を利用している。
        乱流の特徴として、渦度、熱、物質の効率的拡散を起こす一方、ダクトや
      パイプのような閉じた流れの系では、抵抗になり熱輸送などを妨げる。
      物体の後方に出る渦を抑えるために、鮫の皮を真似て表面に小さな縦溝を
      彫るなどして、表面抵抗の低減に成功している。
(2007/12/15)

戻る