「自治・中山隧道」

新潟日報文化賞を受賞した「掘るまいか」(橋本信一監督)という映画の上映が万代市民会館で行われた。山古志村の東部に位置する、冬場は雪に閉ざされ孤立する小松倉集落の人々が、昭和8年から16年かけ、ツルハシによる手掘りで築いた中山隧道に関するドキュメンタリー映画だ。隧道掘削経験者が健在のうちに、是非記録に残しておくという目的もあったということだ。長さは877mで、日本一、しかもこの地域にはほかに500m級隧道、河川トンネル、横井戸など、調査されていないものも多くある。自然環境の厳しさと、その中で生活していくために生み出された人々の勇気と知恵を感じずにはいられない。実際、苦しい生活の中で効率よく掘り進むための様々な工夫がある。後半の一部以外、行政の援助はなかったという。隧道掘り、決行から継続までまさに、生活のための自治の原点を見る気がする。最近新しくできた中山トンネルは通ったことがあるが、次は中山隧道を是非訪ねてみたい。上映会をする場合は、フィルムの貸し出しも行っているということだ。

 昔は私の家にも横井戸があり、飲み水を引いたり、スイカを冷やすことに使っていた。冷蔵庫などなくても済んだものだ。また、子供の頃、トンネルを造ろうと家の裏山を数日掘り続けたこともあった。ある場所から、違った世界へ一気に抜けることができるトンネルや洞窟というものは、子供にとっても魅力的なイメージを与える。飛躍するが、物理においても量子力学のトンネル効果は魅力的で、まだまだ未知な問題が秘められている。

さて、同じように、生まれた土地に生きることの、厳しさとすばらしさを感じた映画に「阿賀に生きる」(佐藤真監督)がある。長い準備期間を経て、スタッフ全員がその地域で約4年に及ぶ共同生活をしながら、現地で暮らす人々の家庭生活の中に入り込めたことで撮影できた、生活、自然、水俣病を見つめるドキュメンタリー映画だ。

平野部から阿賀野川沿いに会津方面に行くと山が多くなり、その豊かな自然環境には感動する。それだけに、昭和電工の環境破壊問題を恨めしい思いがする。ここでも、その土地に暮らす人々の葛藤や決断、知恵が様々存在するであろう。

海が嫌いなわけではないが、山に囲まれ一体感を持ち暮らす人々の勇気と知恵はすばらしいものだ。そこから、力強い自治が生まれてくるのであろう。山に囲まれた長野の教師の間で言われている言葉に、「海は経済を育て、山は思想を育てる」というものがあると聞く。まさに、山に囲まれた山古志や奥阿賀地域にも当てはまる。

こちらは海に近いが、「巻原発反対」の住民運動も地方自治の芽を大きく成長させたものといえる。賛成派の人々も、建設が行われなくて良かったと、誇りに思う時期が来るだろう。ちょうど、中山隧道を掘ることに反対していた人たちが、現在では掘って良かったと思っているように。ようやく、東北電力も巻原発撤回を表明した。そういえば、巻町にも海だけではなく、角田山や多宝山といった山々がある。

新しい施設や道路を造るとなると、その地域の人々の間でも賛成、反対と対立することは多い。その場合こそ十分な建設的議論が必要だ。それこそが自治であり、結論がどちらに転ぼうとも地域の人々の意識そのものを成長させることができるのではないか。


最近、国際熱核融合実験炉を六ケ所村に誘致したいという話がある。核融合エネルギーを発電に利用する基本技術の確立を目指す実験炉で、建設期間は10年、運転期間は20年、総事業費は約1兆3000億円だそうだ。フランスと誘致を争っており、勝てば費用負担は建設費の48%、運転費の42%となる。このことに関する国を挙げての十分な議論はなされたであろうか、疑問である。まずは、経済的利益や地位の保全を受ける人間の言うことは、十分すぎるくらい疑うことが必要かもしれない。もちろん、目標とする2050年ごろの核融合発電の実用化は、到底無理であろう。もちろん、江戸や縄文の生活が一方的にいいと思う人は少なかろう。ただ、生活環境はゆるやかに、いつでも後ろに戻れるような変化で変わるのが良いはずだ。
(2003/12/23)

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