越後九不思議

新潟に住む人でも越後七不思議を全て知っている人は少ないだろう。幾種類かの越後七不思議があるようだが、ここでは親鸞聖人が越後を訪れた際、残した数々の奇跡・伝説に基づくもので、県内各地で語り継がれているものとする。新潟市の「鳥屋野の逆さ竹」と「山田の焼鮒」、安田の「保田の三度栗」、京ヶ瀬の「数珠掛桜」と「八房の梅」、田上町の「了玄寺のつなぎかや」、上越市の「国府の片葉の葦」がある。私の身近なものをいくつか挙げる。(詳しくは様々なHPにも写真とともに記されている。)「保田の三度栗」は、現在、孝順寺にあり、現在でも、年に3度花を咲かせているそうだ。「数珠掛桜」は花が数珠のようにつながって咲く珍しい桜として、国の天然記念物に指定されている。「八房の梅」は梅護寺にあり、1つの花から8つの房をつけ、その後8つの実を結ぶそうだ。「了玄寺のつなぎかや」は七百年前に護摩堂山から了玄寺に移されたもので、護摩堂山の山頂付近にはツナギガヤの自生地があり国の天然記念物に指定されている。「鳥屋野の逆さ竹」は西方寺(普段は無人の寺)にあり突然変異の一種。

こういった類のものは日本各地に必ずあるので、身近なものを四季ごとに訪ねてみることも楽しいだろう。ただ、寺や民家の敷地内にあるものも多く迷惑になってはいけない。また、名のごとくミステリー小説の現場やトリックの一端になったりする楽しみもある。

さて、八番目の不思議として有名なのが「八珍柿」である。「越後の七不思議」に次ぐ、八番目の大変珍しい柿という意味で、原木発見後に命名された。新津市古田の川崎家敷地内の「タネナシ」と呼ばれていた柿の古木が実生樹であることがわかり原木として認定されている。これも突然変異でできたもので、柿の原産地は中国と日本であるだけに、まさに世界でも非常に珍しい柿であろう。手入れがされているせいか柿の木としては巨木ともいえる立派な木だが、これまた民家の庭にあり訪れるときはマナーをわきまえなければならない。柿の木の寿命は長く樹齢100年以上の木も珍しくない。中には500年以上のものもあるらしい。また柿は、有効な挿し木繁殖法(クローンをつくり増やしていく方法)が見いだされていないために、茎頂培養(頂芽あるいは側芽から1o程度の茎頂組織を切り出し、培地に植え付け増やす)によって繁殖が行われている。八珍柿の木は私の家にも2−3本あり、あまり手入れをしなくても毎年かなりの数の実をつけている。子供のころから、焼酎で渋を抜いてから食べていたが、当時は普通の甘柿のほうが硬くて、すぐに食えることもあり好きだった。今でもそうだが、少し田舎に行くと自生している柿の木は多く、いつでも自然の恵みとして勝手に取って食べていたものだ。そのせいか、柿や栗を金を出して買うということには今でも抵抗感がある。

最後に、親鸞聖人とは関係ないが独断と偏見で九番目の不思議も付け加えておこう。「越後の蛍」はどうだろうか。越後でもあちこちで様々な蛍を見ることができる。実際、巻町にあるじょんのび館の周辺は夏(6月中ごろ)になると蛍が飛びまくる「蛍の里」としても有名である。子供のころは、夏になると採ってきて虫かごに入れ枕元において喜んでいたこともあったが、今思えば蛍にとってはたまったものじゃない。「不思議」であるが、ゲンジボタルの雄の飛行中の発光周期(発光から発光までの時間)は、関西では2秒、関東では4秒であることは有名だ。人間と同様、関西のホタルはせっかちだ。越後は細長く関西、関東の境界線(フォッサマグナ)が走る地でもあり、この発光周期の境界線も存在するかもしれない。実際、越後でも多くの場所では2秒前後であるが北部では4秒が多いようだ。中には中間型の3秒の発光周期をもつ蛍も見られるという。まさに、境界線では多様な現象が起こることを実感できる。

科学的興味・疑問も沸いてくる。
あ)一箇所の蛍でも正確に観測データを取るとどのような分布になっているのか?
い)繁殖のため同期して発光する場合、関西型と関東型を混ぜる移動実験をするとどうなるのか?
う)2秒のものが発光数が倍と多いので優勢なのだろうか?さらに3秒が混ざるとどうなるか?
え)3秒型のものは正確な時間で調べると、2秒型や4秒型よりもより広い分布をしてはいないか?
お)集団運動のモデル化と同期現象の解析

などなど、これでも博士の学位論文がいくつでも書けるだろう。
(2003/06/07, 2003/12/20改)

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