「稲作小言」


今年(2004)は国際米年である。NHKの番組「難問即答アナドレズ」があった。米についての様々な問題に回答者が答えるというものだ。例えば、コシヒカリは農林何号か(答え:農林100号)、コシヒカリのルーツは何か(答え:亀の尾、阿部亀次に因む)、日本の備蓄米はどれくらいの期間(答え:2ヶ月分、15度で湿度75%で保存)、日本の米自給率は(答え:95パーセント、昨年900万トン) など。 その番組の最後に、船津伝次郎の「稲作小言」の朗読があった。狂牛病や鳥インフルエンザに騒ぐ今日、ますます冴え渡るようななかなかの名文である。もう一度、確認したくてNHKに手紙を送りコピーを送ってもらった。(船津伝次郎は上毛カルタにも登場する有名人である。)

『ヤレヤレ皆様 しばらくお耳を
拝借しますよ 私と申すは ずうっと昔の
そのまた昔の 神代の時代に 豊葦原より
現れ出まして それより日本に
広まりましたる お米であります
飯にはもちろん 酒でも寿司でも
菓子でも味噌でも お米で作れば
味わいよろしく 紙すく糊にも
布はる糊にも 調法いたして
無類のものなり とげる時分に
出たる粉糠は 牛馬の食料
風呂場に有用 肥料に要用 沢庵漬けには
最も必要 糠味噌漬けにも これまた同様
そのまた茎わら 飢饉の食料 製紙の材料
縄・みの・むしろに 俵に叺に
草鞋に脚半に 農家のふき草
垣壁なんどに 添えるはもちろん
貯蓄のたねもの 包んでおくなら
温気は通さず 湿気も犯さず
焚きてはその灰 種々に必要
腐敗しますりゃ 肥料に適当
そのほか効用 枚挙はつきせず
然るに此のころ お米を廃して
肉食世界に 改良しなさる
お説も聞いたが 肉食世界を
拒むじゃなけれど 獣類なにほど
繁殖なすとも 値段が高くちゃ
下等の人民 食うことかなわず
米なら三銭 四銭でたくさん 穀類作れば
一反二反の 僅かな田地の 収穫ものでも
一戸の家内の 四人や五人は 年中食して
余りがあります 牛馬を一頭
育ててみなさい ある人申すに
数年原野に 放牧するには 一頭飼育に
六、七町余の 地面を要すと
ヤレヤレ皆様 よく聞きなされよ
六、七町余に 一頭ぐらいを
飼うよなことでは 三千八百余万の人民
匂いをかぐには 足りるであろうが
食うには足るまい 足らざるときには
肉類輸入し つまりは必ず お国の損耗
近年お米が 豊作続きで 安値であれでも
安値であるとて捨ててはいけない
十分はげんで 智力をつくして
光沢味わい 最もよろしき 上等種類を
多分に作りて どしどし輸出し外国一般
その良き味わい 十分知らしめ
肉食世界を 米食世界に 変ずるようにと
尽力するこそ 農家の職分 皆様はげんで
勉強しなされ 勉強なされば
お金はどっさり 日本に充満 日本に充満』

(筑波常冶「五穀豊穣」(北隆館、1972)に紹介されているそうである。)

また、NHKの「プロジェクトX」で農業試験場の担当者が詠んだコシヒカリ命名の由来となった一首がある。「木枯らしが、吹けば色無き越の国、せめて光かれや、稲コシヒカリ」この辺までは、船津伝次郎の精神も生きていたのであろう。 私の研究分野でいえば、「物理小言」なるものをつくってみるのも面白いかもしれない。

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