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新潟中越災害に関する罵詈雑言
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1、はじめに
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 2004年7月の新潟中越水害(7.13水害)、2004年10月の新潟中越地震、そして、2007年7月の中越沖地震と、約3年間で国の激甚災害の指定になるような大きな災害が次々と新潟県中越地方を襲った。水害は三条周辺、中越地震は長岡周辺、中越沖地震は柏崎周辺とそれぞれの地域での被害が顕著であった。そして、ちょうどこの三地域と日本海に囲まれて、出雲崎町がある。出雲崎ではいずれの災害でも犠牲者や家屋の損壊が出ているが、被害の中心地からはどれも少し(数十キロメートル)だけ離れており、不謹慎な表現かもしれないが、「技あり」を3つ取られたようなものであり、「合わせて一本」どころか1.5本になり、全てを足すとかなりの消耗である。私が生まれ育った町がこの出雲崎町であるので、今回の震災に関してこのようなメモを書こうと思った次第である。 決して、防災や地震関連の専門家として技術的なことを記そうというわけではなく、物理学の理論的研究をする者として、また、物理の教育に関わるものとして、自らの役割を問うてみる観点からの整理である。


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2、地震教育
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 まず、地震大国、日本で地震についての教育はどれくらい行われているであろうか。中学校と高等学校の理科の教科書で見てみよう。まず、中学の理科の教科書で取り扱う項目は、「震度とマグニチュードの簡単な説明」 「地震のゆれの伝わり方」 「地震の原因と被害」などがあり、「地震のゆれの伝わり方」ではP波やS波の意味を学ぶ。 「地震の原因と被害」では、プレートの説明もある。これは、手元にある ニュージーランドのYear 11(中学3年に相当)の教科書では唯一、"Seismic activity (earthquakes and tunami) occurs when sections of two plates under tension slip suddenly past each other." で、"earthquakes"とのみ書かれていることと比べても、中学の理科の内容は地震大国らしい教育内容といえる。 

 次に、高等学校の地学の教科書の内容をみてみよう。 「振動の伝わり」 「地震の正体」 「P波とS波」「地震波と地球内部」「プレートテクトニクス」「プレート運動」 などで、中学の理科の内容をより詳しく学ぶ。その中には、震源までの距離を計算する公式、
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震源までの距離=7.5×PS時間(P波とS波の到着時刻の差)
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や「地殻とプレートの違い」、プレート運動に関するいろいろな考察をも含む。 特に、日本周辺のプレートや断層についても触れている。内容はかなり豊富であるが、与えられる結果のみでなく、地震やそれに関わる表現の意味をきちんと理解するには、物理の力学で習う、「エネルギー」 「波」 「熱」などをよく理解しておかなければならない。


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3、地震の統計則
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 地震は断層の破壊現象であり、その起こり方は複雑である。一つ一つの地震の確かな発生予測は不可能だが、その集団をとってみると単純な規則も存在する。有名なものが、グーテンベルグ-リヒター(Gutenberg-Richter) 則(GR則)として知られる経験式である。n(M)をマグニチユードM以上の地震の累積数 とすると、
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log n(M)=a-bM   (1)
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 ここで、a,bは正の定数である。書き換えると、n(M)=c exp(-d M) となり、大きな地震の数の減り方は指数法則に従う。また、マグニチュードが1だけ大きな地震は1/10の数しか起らない事をしめしている。  また、そのマグニチュードMと地下のプレートに蓄えられ、地震により放出される弾性エネルギーEとの間の関係は、
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log E=1.5M+11.8   (2)
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である。 logは10を底とする常用対数であり、震度が1増すということは、地震のエネルギーは約30倍になることがわかる。 ちなみに、波のエネルギーEはその振幅の2乗と振動数の2乗に比例する。また、式(1)と(2)から、エネルギーがE 〜E+dEの間の地震の数N(E)dE は次のようなべき則になることがすぐにわかる。
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N(E) 〜 E ^ (-2b/3 -1)   (3)
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多くの場合b〜1ゆえに、 N(E) 〜 E ^ (-5/3) というコロモゴロフの乱流理論の結果に一致する。 余震の数の時間変化n(t)を表す大森公式がある。
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n(t) = K/(t+c)^p    (4)
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tは本震からの経過時間, K, c は正の定数である。つまり、地震から十分時間が経過すればn(t) 〜t^(-p) というべき法則となる。地震が単なるガラスなどの破壊現象と異なる点はこのような長期にわたる余震の存在であるが、その説明として「ゆっくり変化する地下流体」や「相互作用」が考えられている。


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4、地震モデル
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 断層運動のモデルとして有効なものが、バリッジ-ノポフ(Buridge-Knopoff) モデル(スライダーモデル)である。これは、摩擦のある面上に並べられた質点(物体を理想化したもの)同士がバネで連結され、それぞれの質点が板バネによって移動する板と結ばれているモデルである。

 BAKらは、特別な統計分布を持たない一様な系のなかで、単純な要素(今の場合は質点)同士のエネルギーのやり取りと、系からのエネルギー放出(今の場合、質点のすべり、つまり地震)や板の運動によるエネルギー供給(プレートの運動)を決めてやれば、 系が自ら臨界状態へと移行しべき法則が出現する、自己組織化臨界現象(Self-Organized Criticality)を提唱した。上記のスライダーモデルやその改良型、また類似のサンドーパイルモデルを用いて、式(1)のGR則を再現することが出来る。

 また、カオスのマップを用いて、様々なベキ法則を説明するためのメタファーモデルも 提案されている。そこでは、地震の非定常性として、地震の偶発的現象の自己組織化臨界状態が議論されている。詳細は文献に譲る。

「地震の統計則」や「地震モデル」で記したことは、いわば地震の学術的意味であるが、よくある地震予知と何か関わるであろうか、次節で考えることにする。


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5、地震学
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 一言で言えば、「いつどこでどんな規模の地震が起るか」を、天気予報程度に予測する事は、いくら技術が進歩しても困難であろう。それは地震そのもののが偶発性に起因するからだ。もちろん、どの断層にどれくらいの歪のエネルギーが蓄えられているかは、GPSを使いある程度把握できるが、そのエネルギーをいつ、どれくらい放出するかを予測することはできない。(明日なのか50年後なのかは不明。)

 もちろん、地震に備えることは出来る。今まで経験した最大級の地震が生じても壊滅的ダメージを被ることの無いように、住居の設計や補強、避難訓練、被災した後のための準備を、日常的に意識しておくことが重要である。また、どんなに予測ができたとしても、被災者は発生する。行政的にはどれだけの予算をどう使えば、被災者の救済が最大限可能になるかを判断していかなければならないという点で、見識が問われる。その中で、地震の予測をどの程度に位置づけるかが問題だ。もちろん、地震予測に予算をわずかでも使うのは無駄である、という極端なことを言う気は無い。ただ、研究者や関係者が自らの雇用や保身のために地震予測を売り物にするのであれば、道路公団や社会保険庁などの役人と同じ体質だ、ということになる。むしろ、実質的に役立つ可能性があるという点のみならず、災害時に有用になる可能性が大きいという点では、道路や農業へのバラマキ行政のほうがまだましであるという事態も生じかねない。もちろん、研究者の社会的責任が強く問われる。


 多くの精密な機器や人員を用い、より多くの観測点でより正確なデータを得て地震予測をするためには、巨額の予算を必要とする、一方、それに見合った結果は期待できないであろう。むしろ、大衆のわずかずつの協力で地震の前兆現象の探知を目標とするほうが、はるかに合理的である。 1975年、中国の海城地震で予知が行われ多くの人命を救ったのは、大衆参加による前兆現象の報告がそれを可能にしたといわれている。これは、日本自然保護協会が全国各地の会員に呼びかけて行う、生態調査にも類似している。夏休みに子供と遊びながらバッタの数やセミの抜け殻を調べて、その地区での気候条件や環境問題を浮かび上がらせるというものだ。

 地震予知でよく知られているものとして、ナマズなど、動植物の異常行動がある。岩石、特に石英に圧力を加えると電磁波が発生する。これを圧電効果といい、水晶発振器等はこの圧電効果(ピエゾ効果)を利用している。そして、活断層では岩石が大きな圧力を受け、この圧電効果により特異な電磁波が発生していることが知られている。 (実際は、電圧分極の生成消滅により、パルス電磁波が生成される。) 小魚が出す電気を高感度に感じ取り捕食するナマズが、この電磁波を感じることができる、という説がある。実際、「地震予知にナマズネット」なるものも存在するようである。


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6、地震と原発1
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 柏崎には東京電力柏崎刈羽原発(東電)の原発があり、7号機まで全て稼動時での総発電量は世界一である。 建設前から、かなり強い反対運動が長期にわたり続き、途中でプルサーマル計画は断念したにしても、結局全て建設された。ここで、もう一度原発存在の「意味」を考え直してみることは無駄ではないと思う。

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    私が柏崎高校3年生のときの担任だった佐藤先生(サンペイちゃん)は、
   物理の教師であった。なかなか独特な教師で、原発反対運動にも積極的で
   あり、さすが物理の教師だと感じたものだ。 また、当時の保健体育の
   教師で、強面ながらなかなか人気者の猪股先生(ペギラ)がいた。(残念
   ならが私は、正規の担当者が不在の折に1-2回体育の授業を受けたのみだが。)
   そのペギラが、中越沖地震の犠牲になった。散歩に出て行方不明のなか、
   倒壊した寺の下から遺体で見つかったのだ。 心から、ご冥福を祈る。  

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 新潟県中越沖地震で、火災や放射能漏れなどトラブルが多発している東電にIAEA(国際原子力機関)が調査に入る意向を示したことに対し、政府は当初、調査団の受け入れを拒否した。 (放射能とは放射線を出す能力のことであり、放射性物質が漏れているということなる。) 都合の悪いことはなるべく隠す体質であり、これでは北朝鮮と大差ないとも言える。 これに対して、泉田新潟県知事は政府にIAEAの査察の早期実現を要求し、結果的にIAEAによる査察が実現する予定になった。  会田柏崎市長は、東電に対し、消防法に基づき原発の安全が確認されるまで運転を再開しないよう停止命令を出した。また、国の考えを正すため経済産業省原子力安全・保安院の加藤重治審議官も呼び面談した。この二人の対応は、原発に対し慎重派らしく適切であったと思う。 これが、原発推進派の前新潟県知事の平山氏や前柏崎市長の西川氏の組み合わせであれば、東電や国に対しより形式的対応のみで終わったのではないであろうか。

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    平山前知事が退職した翌日に中越地震が起き、長岡周辺に大きな
   被害をもたらし、タダでさえ逼迫する県の財政にも打撃を与えたわけだが、
   平山氏は、約1億円の退職金をもらい逃げし、被災地を訪れることもなく
   新潟市内の高級マンションの最上階で悠々自適の生活をしている、とか。
   平山氏に一票を投じたことのある有権者も反省すべき点があるのではないか、
   と思う。平山氏も柏崎高校卒だが、柏崎に甚大な被害をもたらした中越沖地震が
   彼の退職直後に来ていたら、彼の振る舞いは異なっていたであろうか。

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 そもそも原発に対し楽観視は決して許されず、常に慎重すぎるくらい慎重であることが当たり前である。この震災による東電や国の対応をみれば、今までの原発推進派も真摯に反省すべき点があるだろう。危険性ゆえに、エネルギー問題や地域振興の問題とは比べものにならない。より慎重で懸命な選択が必要だ。

 中越沖地震での被災者の生活や、東電の放射能漏れに関する報告をするテレビ番組をいくつか見た。そのときに流れたCMで、東北電力がオール電化の宣伝をしていたのには、あきれてしまった。震災で一番教訓的なことは、社会であろうが、企業であろうが、目先の効率に惑わされずに、重要な機能を分散し、リスクを低くすることであろう。 エネルギー供給の方法や首都機能なども同様である。 私自身は、原発に対しては「慎重派」であるが、事故関連の情報を隠蔽したり、小出しにする今の体質の東電の原発には反対と言わざるを得ない。そういう経営者を信用をすることができない。また、技術者や科学者は、経営者や上司がどうであろうと、事実に対して真摯にならなければならない。また、技術者や原子力工学者も、自分の専門分野のみに集中するあまり、システム全体が見えず、市民や社会対しての責任を忘れがちであると思う。少し極端にいえば、電力会社など原発を推進する側は、原発反対派の地震や災害に対する想定以上に、全システムに関して慎重でなければならないのであろう。 実際、今回の地震に関しても、柏崎沖の活断層の存在による危険性は、原発反対派が以前から主張していたものである。 さらに、東電の人々は、事故や地震は平日昼間を選んで起るとでも思っていたのであろうか。 365日24時間、いつ非常事態が起こっても、同じように対応できる体制が当たり前だ。

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    また、テレビCMといえば、元早稲田大学教授の吉村作治氏が東電の原発の
   タンクの上に乗り、「こんなに安全です」、とアピールするものを見たことがある。
   考古学の学位すらインチキであるという噂の彼に何を言っても無駄であろうが、
   金さえもらえば何でもするバカであることは確かだ。

    私自身にも反省する点がある。以前の職場、新潟大学工学部機能材料工学科では、
   当時のO助教授が中心となり、東電の人間を非常勤講師に雇い、学生の教育の一部を
   丸投げしていた。そして、工場見学などでも学生が東電を見学すれば、
   (公ではないが)学生の話では、自動的に単位が もらえるというシステムになって
   いた。一番重要な原発に対する安全性の教育などが、偏った視点でしか行われ
   なかったであろうことに対して、同じ職場にいたものとして反省する。

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7、地震と原発2
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中越沖地震では、東電の97台ある地震計のデータのうち63台はデータが上書きされ、最大加速度値以外の本震波形データが失われて、うち9台は最大加速度値も上限1000ガルで振り切れていた。残りの33台の地震計のデータ解析結果では、3号機で2058ガルの揺れが、1号機では建設時に想定した6.8倍の揺れが確認された。地震波の周期ごとの分析では、全号機でほとんどすべての周期帯(0.02-5.0sec)で想定を超えた加速度であった。特に、周期の長いゆっくりした揺れ(周期2sec以上の波)が10秒以上続き、木造家屋の倒壊につながったようだ。このゆっくりしたした波がどうして発生したのであろうか。柏崎周辺の地盤がその周辺より軟弱なため、質的に異る境界で散乱された地震波が閉じ込められた可能性がある。(局在現象といえるだろう?  地震波が屈曲し、レンズの焦点効果を生み、局地的に大きな地震動が引き起こされることがある。 また、今回のものは、硬い岩盤で反射された波が軟弱地盤に集中する「なぎさ現象」が起きたためとする調査結果もある。寄せ波と引き波が重なって高くなる海の波に似た現象ゆえこの名がついた。)

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   地震の揺れの強さは、震度で示されるほか、瞬間的な揺れの強さを示すもの
  として加速度(ガル, Gal)が使われる。加速度の単位には m/s2(メートル毎秒毎秒)
  のほか、地震の揺れなどでガル という単位が使用される(100 Gal = 1 m/s2)。
  地球の重力加速度は、980ガルで、980ガル以上の上下動が生じた場合、
  瞬間的に無重力状態になる。ちなみに、中越地震では、川口町が2515ガルを記録。
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 東電は、「安全性は確保されている」とし、なんの対応もしてこなかったことをどう反省するのか。 この活断層ではM8以上の地震がいつ起こっても不思議では無いと想定すべきだはないか。当然、原発関連全ての施設で3000Gal以上のゆれを想定した強度が必要だ。しかし、24時間体制の人的配備や今後の電力需要(日本の人口が半分くらいになる)を考えれば、安全に廃炉にしていくほうが、東電としても得策ではなかろうか。 また、東電は漏れた放射能量の計算を間違え、低く見積もっていた。当初は6万ベクレルと発表していたが、実際は9万ベクレルだった。全く、呆れるばかりだ。どれだけ高い技術を持とうが、こういう体質が直らない限り、原発は使用すべきでない。

 後藤信行著の「自然界の万華鏡―‘癒し’の時代の物理学―」に次のことが書かれていて、良い教訓になる。 量子力学の解釈を与えたM.ボルンの弟子は多い。例えば、原爆の父オッペンハイマー、 水爆の父テイラー、最初の原子炉を作ったエンリコ・フェルミなど。 ボルンは晩年、弟子たちについて次のように述懐している。 「利巧で有能な生徒をもったのは満足なことであるが、彼らのcleavernessがもう少し少なく、 wisdomがもう少し多かったらどんなによかったか。かれらが私から学んだものが研究の方法だけだったとしたら、それは私の責任だと思う。いまやかれらのclevernessが、世界を絶望的な状況におちいらせている。」


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8、生活と災害
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 地震をはじめ、水害や雪害などの災害発生が多いという地理的地質学的条件は、生活に悪いことばかりをもたらすわけではない。新潟県に温泉の数が多いこと(全国3位)や水が清く豊かであること、(荒川は2年連続、日本一の清流)に通じている。さらには、淡麗辛口という独特な日本酒を生み出している。(たしか、日本酒生産量、日本3番目、淡麗の消費量は1位。)また、豊かな水で作る米作により食料自給率はほぼ100%である。もちろん、こればかりではない。隣接する山形、福島、長野、富山、群馬の県境に残る豊かな山林や平地には祖先が命がけで残した田んぼが残っている。 都会のサラリーマン生活に習うような単純な価値観さえ持ち込まなければ、十分に豊かな生活が可能である。特に、この環境は子供が成長するために非常に恵まれたもの環境である。今回の地震も、自らの生活場所やその意味を学ぶ貴重な機会であろう。これは、自然環境のみならず、歴史や地域学、法律など多岐にわたるものだ。

 当然、自然環境を守ることや田んぼだけでは生活していけない、という意見も出てくるし、もっと地域開発をしたり公的助成金を得たいという向きもあろう。 しかし、本来重要なことは、ものの見方や考え方が豊かならば、それほど多くのお金がなくとも豊かな暮らしができる、ということだ。そのために必要な環境が身のまわりにいくらでも用意されているのだ。ただし、その一方で、国の政策としても、より地方や田舎に人々が住みやすくなる方向の政策が必要だ。 そもそも、首都圏に水、電気、食料、人的資源を提供しているのは農村部だ。 さらに、独特な価値観に基づく生活ができれば、文化も提供する事になる。 生活と米作りに関して、次の雑誌の特集が参考になる。 「稲と<自然>の再定義」(科学 vol.77, Jun. 2007 岩波書店)

 地域開発と環境維持の対立問題の構造に対しては、「農薬や遺伝子組み換え問題」 「環境開発(ダムや道路)と環境保護の問題」「電磁波問題」 ひいては、「技術的進歩と文化の問題」などにも、類似のものを見ることができる。 決して、技術の進歩を否定しようというわけではない。むしろ、まだまだ不十分で、いい加減なものだ。そうであるがゆえに、ただ前進すればいいというものではなく、いつでも一歩後退できるように、視野を広くして、後ろを振り返りながら、断熱的(慎重)に、前に進むべきではなかろうか。


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9、さいごに
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 2005年前後の平成市町村大合併の折に、出雲崎町は合併しない選択をした。当初は、周辺の小さな2町村と合併し「良寛町」になる予定で進んでいたが、その2町村が長岡市と合併したことにより、三島郡には出雲崎町のみが残ったのだ。実は、出雲崎町には、合併に関して苦い経験があった。 1957年に、旧西越村と旧出雲崎町が合併し、出雲崎町が誕生した。 
(http://www.town.izumozaki.niigata.jp/gappei/gappei_index.html )
当時から、米作りの兼業農家中心の西越村と漁師の多かった出雲崎が合併しても、生活スタイルや考え方の違いのせいか、なかなか融合してうまく行ったわけではなかった。 各地域が自分の地域の勢力拡大を目指すようなら合併はしないほうがマシだ。 その町が少しずつでも隔たりが無くなっていくには、町自体が衰えて、内部の地域のことなど言っていられなくなってからのような気がする。 ちなみに、新潟市から柏崎市に至る日本海側において、平成大合併で合併しなかった小さな町は、産業廃棄物処理場のある出雲崎町のほか、弥彦競輪場のある弥彦村と原発のある刈羽村のみであることは、皮肉なことである。

今回の災害に関しても、良寛のことば、
「災害にあう時節には、災害にあうがよく候、死ぬ時節には、死ぬがよろしく候、是災難をのがるる妙法にて候」 を胸に据えて、独自の町づくり役立ててもらいたい。

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参考文献
○深尾 良夫, 石橋 克彦 「阪神・淡路大震災と地震の予測」(岩波書店 1996)
○菊地 正幸 「地殻ダイナミクスと地震発生」(朝倉書店 2002)
○日本地震学会地震予知検討委員会 「地震予知の科学」(東京大学出版会 2007)
○「稲と<自然>の再定義」(科学 vol.77, Jun. 2007 岩波書店)
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(2007/07/25, 2007/07/31)


後記 (2007/08/13)
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中越沖地震後、出雲崎漁港から数キロ沖合で水深約75―100メートルの海底約20キロにわたり大量の古木が浮かび上がり、マダイ漁に大きな影響を与えた。 古木は縄文時代中期から後期のもので、海底の液状化現象とともに浮き出してきたようだ。 ヒノキやブナ、ミズナラなど、直径30〜40センチ、長さ1メートル前後の丸太が多い。  実際に、祖母の墓参りに行く途中、いくつかもらってきました。
 古木
この古木の無償配布には、大勢の応募があり、200-300人は断ったようだが、被災者のことを思えば、希望者には募金くらい募ってもいいであろう。
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