「黒体としての竹炭」

黒体とは入射するものを全て吸収するものを言う、物理用語だ。入射の方向や変更状態に関係なく全ての波長の放射を完全に吸収するのである。太陽の黒点や宇宙のブラックホールの名称の「黒」もこれに由来し付けられている。熱平衡にある黒体輻射と空洞輻射は同等である。黒い炭は近似的にこの黒体と見なせ、電磁波遮蔽、温熱作用、など産業上の有益さやその応用は様々である。

特に、注目したいものが「竹炭」である。日本における竹の品種として一般的な孟宗竹は江戸時代に中国から伝わり移植され、全国に広まり、あたかも在来種であるがごとき状況になった。成長が早く、3ヶ月で親竹と同じ大きさになる。神秘的な寿命の問題があるとはいえ、その成長スピードと、毎年生えてくるサイクルの早さは、他の木材などと比べ類を見ない持続的天然資源といえる。環境問題が言われて久しい今日、この孟宗竹を原料とする竹炭は、エコロジカルな観点からも注目も集めている。

竹林では竹が全て地下茎で繋がっているので、外に広がることを防ぐために内側の竹を間引き、新しい竹が竹林の内側に生長するように調整する必要がある。ちょうど、傘をさして歩けるくらいの疎らさがいいという。間引いた竹(竹炭に利用されるのは4〜5年生の竹)を原料に竹炭を作成することで、無駄のない循環が可能になる。もちろん、以前はこの竹を建築材や農具などとしても生活に用いていた。

炭は、顕微鏡で拡大してみると多孔質(要するに、穴だらけ)だとわかる。多気孔な構造の特徴の一つとして、様々な物質を吸着する機能がある。水蒸気も吸着し、湿度調節機能がある。竹炭の構造は、備長炭の数倍から10倍の吸着力があるとも言われる。また、この多孔質ゆえ、空気や水をよく通し、その中に臭い、汚れを吸着してにおいの有機成分と化学反応し、清々しい空気や水をつくる。

今後注目したいのは「電磁波対策」に竹炭が効果的かどうかである。最近、電化製品の増加や携帯電話の普及などにより、人工的な電磁波が多く発生している。黒体である竹炭を利用して、身を守る事ができないか。炭でコーティングした商品や衣類に織り込んで利用できるかもしれない。その際、用途に合わせ竹炭の伝導性を制御する必要もあろう。高温で炭化するほうが伝導性が高く、低温だと半導体的電気特性を持つとされる。 

しかし、注意すべき点として、「科学的に想像できない、根拠のない宣伝文句」がある。たとえば、「雷を避雷針で防ぐ原理と同様に、炭は電気をよく通すので、電磁波を引き寄せます」などの記述を根拠とした「電磁波防止効果」だ。あちこちから電磁波を吸収するので避雷針のような役割をするかのように表現されている。その物体が黒体であることと何も関係ないことである。さらに、「空気中のマイナスイオンを増やす機能」も全く根拠がない。炭が空気中のチリやゴミなどの汚れやプラスイオンを吸着し、快適な感じを与えることは、マイナスイオンを発生させることと同じではない。そもそも「空気中のマイナスイオン」などは何モノの事を言っているのか不明である。(2006/1)

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