ブレイドシティ「秘剣」



 東京は荒廃した、と言う者がいる。
 この街が首都という責務を担っていた頃の姿を知る者たちだ。かつて、世界
経済における一大拠点としての地位にあり、光に富に幸福に生命に満ち溢れた
時代を生きていた人々。彼らの多くはその喪失を嘆き、街を去った。
 東京は別に荒廃したわけではない、と言う者がいる。
 この街の真の姿を見続けていた者たちだ。光の富の幸福の生命の裏で、じっ
と息を潜め音もなく蠢きながら確かに存在していたものを、眼で耳で何よりも
肌で感じ取っていた人々。彼らの多くは動揺もなく、街に残った。
 東京は荒廃したのではない。
 他の全てが去った後に、荒廃が残っただけなのだ。
 それは以前からあった。人々の生活を快適にする裏で、無限に排出されてい
た汚水。少数者の富を支えるために貧窮する多数者。幸福の踏み台になる不幸。
新しい生命が祝福と共に誕生するのと時を同じくし、誰に看取られることもな
く朽ち果てていく老いた生命。
 昔から在り、在り続け、そして今も在る荒廃――

 今、ここでも。
 ビルとビルの間、片付ける者もない廃棄物が散乱する小道の奥深く、窓から
漏れる僅かな明かりのみが照らす世界で。

「…………く……ぁ……ぁぁ……っ…………」

 倒れ伏す男に、

「ひひっ……」

 近づいてゆく者が、

「や……め…………」
「ひぃひひひひひっ」

 手にした刃を振り下ろし、

「…………っ!!!!」
「ひひひひひひひひひひひはははははははははははははははははははははは」

 ――東京にまた一つ、荒廃が落ちる。








                秘剣








 視界の中心にあった白い円が、急激に膨張していく。一瞬の十分の一という
時間で、一回り、二回り、三回りと――
 それは事実ではない。目前に立つ敵、その両手に握られた竹刀の突きが迫り
来る様子を、彼の両眼はそう捉えていたのだ。
 眼が脳に伝達した誤情報に、脳内で待機していた分析班がNGを出す。再調
査を命じられた眼球が不平を鳴らしつつ今度は正しい情報を掴んで送り、それ
を受けた脳が緊急対策会議を開始、討論の末直ちに回避行動を取るべしと決議
した時には、のろまな知性にとうの昔から愛想を尽かしていた反射神経が既に
身体を動かしていた。
 矢のように疾る竹刀の先端が、鎖骨の上を軽くこすりつつ虚空を貫く。上体
を左に傾がせていなければ、竹刀は彼の喉までの最短距離を走破していたこと
だろう。
 やや前のめりになった敵の、無防備な胴が見える――
(斬れるか?)
 斬れただろう。だが上体の動きで崩れたバランスが、行動の遅れを生んだ。
その間に敵は突いた時にも劣らない速度で竹刀を引き、同時に半歩退く。その
距離は、もはや彼の攻撃を許す間合いではない。
 深追いしそうになる身体を押さえつけ、改めて敵の全貌を見渡す。
 面と小手は白。胴は赤。女子用としてはスタンダードな剣道用防具に身を固
め、竹刀を臍の前で握り、剣先の延長線をこちらの喉元に突き刺す正眼の構え
をぴくりとも崩さない。そのまま右に左にと、流れるような足捌きで身体を振
っている。
 また、チャンスを捉えて仕掛けてくるだろう。纏う空気がそう告げていた。
だが彼には、敵が仕掛けてくるのを待つつもりはない。今は機先を制されたが、
振り出しに戻った今度こそ、こちらから事を起こすつもりでいる。
 左足を前に出し、右足を後ろに引き、左手で鞘口を握り、右手を腰に当て、
体勢を落とす――いわゆる居合腰の状態で、慎重に機会を窺う。
 ……二人で一枚の絵を描くようなものだ。
 彼は前々からそう思うことがあった。戦いとは、二人の人間が一枚のキャン
バスに筆を走らせ合い、構図を描き、相手の構図を利用し、先に『勝利』と題
した絵を完成させんと競うものだと。
 彼の脳裏には、既に勝利の絵が完全なイメージとして在った。それを現実に
投影するには、敵を彼の意に沿って動かす必要がある。
 前方以外の視界を遮断する面金の奥から、敵の動きを掌握していく。視角を
狭める剣道の頭部用防具は本来好きではないのだが、このような際は、余計な
ものを見えなくしてくれるのが有り難い。一人の敵に視覚を奪われた状態とい
うものは、常に不測の事態の発生を想定すべきとする実戦剣術家たちの忌むと
ころだが、全感覚を傾けねば確実に隙を突かれる敵が存在する時は、強敵に集
中して伏兵に背後を突かれる危険も、周囲に気を散らして正面の強敵に斬られ
る危険も変わりはしないと、彼は開き直っていた。それなら確実に存在する正
面の敵をのみ意識する方が良い。
 一心に目を凝らし、耳を澄ませ始めてから、どれほどの刻が経ったのだろう。
客観的にはせいぜい十数秒、しかし主観的には数分以上。見たかったものが、
ようやく見えてきていた。肩の、口元の、微かな動き。それと同調する、呼吸
の響きも耳に感じる。
 錯覚かもしれない。しかし彼は信じた。自分の感覚は常に真実を掴む。妄想
の産物に過ぎない錯覚ですら例外ではないと。
 腰に差した鞘付竹刀、その鞘口を握った左手の感触で、目を向けることなく
柄の位置を知覚する。それを右腰前につけた右手に連絡する。
 ――大丈夫だ。抜ける。
 敵が、静かに息を吐く。
 次の呼吸だ。最後の空気を吸い、それを一息に吐き出しながら奴は打ち掛か
って来る。
 ――ここだ。
 敵が息を吸う。
 ――今、ここだ。
 吸気に引き込まれるかのように、彼は左足を一歩踏み込んだ。
 敵の支配領域を己の支配領域で侵蝕し、斬撃の間合いの内へ捉える。
 はっ、と相対者の表情が震えるのを見たような気がした。
 右手を竹刀の柄に迅らせる。掴む。止まることなく抜刀する。滞ることなく
斬撃へ――
 しかし居合の攻撃は遅い。抜刀からそのまま斬撃に連結する抜き打ちでも、
鞘から抜くという動作が大きなタイムロスを生む。実際、最初から正眼に構え
ていた敵は、明らかに――と言ってもコンマ一秒以下だろうが――遅れて行動
を起こしながら、弧を描くように跳ね上がったその竹刀は、相討ちのタイミン
グでこちらの右小手を打とうとしている。
 かくあればこそ、居合を使う者は敵の攻撃を外してから仕掛けるのが常道と
される。が、彼はただの暴挙としてセオリーを無視したつもりはなかった。
 抜刀から、胴斬りへと刀を運ぶ右手――その軌道を急変させる。
 右手が最初にあった場所、右腰へ、殴るような勢いで引き付ける。
 そして左手を、回転して先端を敵に向ける格好になった竹刀の峰へ。
 ぱしぃん、と乾いた音を響かせ、彼の竹刀は敵の小手打ちを弾いた。
 刹那。
 脳裏に思い描いていた必殺の絵が、完成する。
 敵の竹刀は完全に殺された形で虚空を泳ぎ、対して彼の竹刀は敵の無防備な
喉を射程に収め。
 いかに未来が無限の可能性の所有を標榜していようと、この先の展開は一つ
しか用意できなかったろう。
 実質的な決着はここでつき、完全な決着は一瞬後についた。


「これで三人めだな」
 そう洩らし、巨漢はうむう、と唸った。
 四人だろ。汗を拭いながら、比企十四郎は心の中でそう訂正したものの、口
には出さなかった。健忘症とまで言っては酷だろうが人より物忘れが激しいこ
とは疑いようもないこの男、神代将人は、それを指摘されると大抵機嫌を悪く
する。うすら馬鹿でかい図体を持つ男が不機嫌に沈黙している様は、見ている
だけで重苦しい気持ちにさせられることは過去の経験から充分知っていた。
 だから、十四郎が口にしたのは別のことだった。
「また、使い手だ」
「おお、そうだな。片倉康平と言やあ、北辰一刀流田嶋道場の三馬鹿だか何だ
かに数えられていた奴だ」
「……三羽烏、でしょ」
 流石に馬鹿はねえんじゃねえかな、と十四郎が思った時、それに同調するか
のように将人の背後から声をかけた者がいる。
 呆れたような声。板張りの床に映る長い髪をゆらめかせた影。振り仰ぐまで
もない。
 蔵早由李。五分前まで十四郎に竹刀を振るっていた女だ。
 防具の上からとはいえ激しく突かれた喉はまだ少し痛むらしく、右手で軽く
さすっている。
「死んだ人を悪く言うのは良くないよ」
「いや、悪く言ったわけでは」
 危惧していた通り不機嫌になりかけた将人だが、早由李に続けてそう言われ
るとうろたえた表情を見せた。元来悪意のない男だから、このような『誤解』
を受けると動揺を隠せないのだろう。
 ちらりと見上げれば、そこはかとない勝利感を漂わせた早由李の白い顔が目
に映る。底意地の悪い奴、と十四郎は声に出さずに呟いた。
 声に出して言えば拗ねるからだ。
 今、道場に他の人間はいない。寝転んでいる十四郎、胡座をかいている将人、
突っ立っている早由李を除けば、あとは稽古道具と形なき空気が詰まっている
だけだ。
 総合武道天心館は、東京に無数に存在する格闘技教習所の中でも小さい方で
はないから、門下生を多く抱えている。が、そのほとんどは週に三度行われる
定例稽古の時のみ道場にやってくる外弟子であり、内弟子、と言うか特に用が
なくても道場に入り浸っている半ば住み込み状態の弟子となるとほんの数人だ。
十四郎と早由李はその範疇で、大学に行っている時間以外は道場にいることが
ほとんどだった。将人は道場主の息子である。
 道場に来て何をしているか、それはやはり稽古をしていることが最も多い。
だが時には、身体の調子が悪かったり、稽古道具を修理に出していたり、どう
にも気分が乗らなかったり、あるいはただ単に休憩中だったりして、何をする
でもなくぼんやりと時を過ごすこともある。今が、丁度そんな時だった。
「しかし、謎の辻斬りか……一体、どんな奴なんだろうな」
 不器用に話を逸らしつつ、将人は道着の前を軽くくつろげた。季節は秋に入
ったとは言え、今日はやや日差しが強く、過ぎ去った夏を懐古させる陽気にな
っている。
「さー、な。相当の達人だってことは間違いないだろうが……」
 相槌を打って、十四郎は埋もれた記憶を掘り返そうと試みた。正体不明の暗
殺者。一ヶ月ほど前から始まった連続斬殺事件。だがその程度のことなら、こ
の東京を騒がせるには値しない。
 十年前、遷都が行われ、天皇と政治機構が西へ去っていってから、東京の治
安は急激に悪化した。それ以前から治安の低下は問題視されていたが、遷都後
の急転直下に比べれば、当時はまだまだ平穏だったと言える。
 政治家たちと入れ替わるようにして、東京には規制を解かれた外国人の群れ
がまさしく怒涛の勢いで殺到してきた。そして彼らは、慣れない土地で当然の
ようにトラブルを起こした。『郷に入りては郷に従え』と言う。だが先住者た
ちには、自分たちのルールに新入者たちを従わせるだけの気概も力もありはし
なかったのだ。
 遷都から一年後、東京では『自衛』が流行語になっていた。そして三年後に
は、道端に転がった死体の脇を何の感慨もない顔で通り過ぎてゆく人々の様子
が『衝撃! 廃都市東京の実態』というドキュメンタリー番組で全国に報道さ
れ、現場である東京を除く地域で一時期話題を呼んだ。
 低下する治安と反比例して、東京ではセルフディフェンスを教える武道道場、
格闘技ジムが隆盛した。元々、日本は世界各国の中でもそういう施設の多い国
である。だが、遷都後数年でその数は少なくとも二倍、多くみて十倍にもなっ
たと言われる。数字があやふやな理由は二つ。一つは、今の東京では正確な統
計調査など望むべくもないから。もう一つは、増減が激しいからだ。
 いかに身体を鍛え格闘術を身につけても、拳銃を敵にすれば運を天に任せる
以外のことなどほとんど何も出来はしない。が、銃火器の流入はこれが最後の
砦だとばかりに警察が躍起になって防止しているし――それでも持っている者
は持っているが――素手やナイフ持ちの暴漢に対抗するのなら格闘術は役に立
つ。だからこそ商売になるのだが、商売の世界とはすなわち競争の世界だ。道
場破り、教習所による教習所への攻撃、そしてそれに対する報復、報復に対す
る報復といった争いは、江戸時代の昔もかくやと思われるほど横行していた。
 だから、それぞれ道場に所属している三人、いや四人の人間が、同一と見ら
れる犯人に殺されるという事件が起きたとしても、それはそれだけのことに過
ぎない筈なのだ。それが今回、それだけのことで済まなかったのは、四人が四
人とも名の知れた剣術使いだったからである。
 新陰流の沢田和樹。
 小野派一刀流の竹村良雄。
 直心影流の太田達也。
 北辰一刀流の片倉康平。
 沢田和樹は、かつて都内を荒らし回った著名な道場破りを返り討ちにしたこ
とで名を挙げた。竹村良雄はその逆で、実戦最強を謳っていた有名棒術道場に
木刀一本で道場破りを仕掛け、見事に看板を奪い道場を閉鎖に追い込んでいる。
太田達也は元剣道選手で、高校生時代にインターハイを制した実績を持つ突き
技の名手。一昨日死んだ片倉康平は、東京でも最大規模を誇る道場で師範代を
務めていた。
 彼ら、実力も実績も充分と認められていた四人の剣術使いが立て続けに斬ら
れ、しかも現場の様子からして正面から堂々と勝負を挑んできた単独の敵と立
ち合って敗れたようだと来れば、東京武道界が『謎の暗殺剣士』の噂で持ち切
りになるのは当然のことと言えた。もっとも四件の犯人が同一というのは、四
人がほぼ同じ状況で殺されていることから、警察がその方向で捜査しているら
しい――その捜査とやらが形だけのもので終わらず、実際に犯人を挙げるに至
るなどとは、東京に住む者は誰一人として期待していまいが。当の警察を含め
て――との噂がその実態であり、何らかの確証が上がっているわけではない。
 それでも多くの人間が『謎の暗殺剣士』の存在を信じるのは、
「きっと黒ずくめの美男子ね。頭は長髪。それで頬には十字傷なんかがあった
りするのよ」
「そんな分かりやすい奴が刀持って歩いてたら、普通の人は逃げると思うぞ」
「普通じゃない人間なら先制攻撃入れるよな。そんな奴なら発見即殺しても情
状酌量して無罪に違いない」
 ――その方が面白いからだろう。いい加減な合いの手を入れながら、十四郎
は内心で呟いた。無責任な立場でする無責任な噂話のネタとしては格好だ。責
任ある立場になる予定も全くなければ、尚更に。
 もっとも、比企十四郎も若手剣術家の中ではそれなりに知られた名前である
以上、明日には当事者になっている可能性も無くはないのだが。
「……」
 そんな自分の考えに、怯えたわけではなかったにせよ。
「どうした?」
「田嶋道場に行ってくる。少し、興味が湧いた」
 急に立ち上がったこちらを訝しげに見上げる将人に、十四郎は短く答えた。
 興味が湧いたと言うより、無為な時間に飽きた心が暇潰しの種に飛びついた
と言うべきだったかもしれない。
 十四郎の言葉を聞いて、早由李がぱっ、と表情をひらめかせる。
「一緒に行く!」
「お前、そろそろ家に帰る時間じゃないのか?」
「帰るよ。そのついで。田嶋道場でしょ? ちょっと寄り道になるだけだよ」
「……そうか? 結構距離があると思うんだが」
 早由李はやたらと十四郎にくっついて歩きたがるところがあった。
 別に彼女を嫌ってはいないし、可愛いと言えば可愛い一歳年下の後輩に懐か
れていると思えば悪い気はしないが、始終ついて回られるとやはり少々鬱陶し
さが先に立つ。
「言っとくが、死体を見てくるつもりだぞ?」
「いいよ。わたしも関心あるし」
「その後で晩飯ってことになるが」
 時刻は夕方だった。
「また明日ね」
「あー」
 軽く手を振り、十四郎は一人、道場を出る。
 ……計算通りとはいえ、自分は美味しい食事以下だと言外に告げられると、
心に何か虚しいものを感じないでもない。
 明日の稽古で、足を掛けて転ばせて上から踏んでやる。十四郎はそう決めた。


 田嶋道場に、片倉康平の遺骸はなかった。
 彼には親類縁者がおらず、遺体の引き取り手がなかったので、公共墓地へ送
られたようだ。珍しいことではない。廃都と化した東京に残った者の多くは、
他に行き場を持たない人間だったのだから。
 無駄足を運んだとは思いたくなかったので、道場の人間を捕まえて事件の詳
細を聞いてみることにする。他所の道場で十四郎がそこまで出来たのには理由
があった。
 十四郎が属する天心館には多種多様な使い手が集っている。例えば将人は槍
術を得意とし、早由李は競技剣道を基礎に実戦性を高めた剣術を使う。十四郎
自身は居合を主体とした剣技を主に修練している。
 こうもまとまりがないのは、天心館館長神代大吾の指導方針が「あらゆる武
術を研究し、使える技を見出して習得しろ」というものであるからだ。必然的
に、天心館は数多くの道場流派と関わりを持つことになった。こんな世情のこ
と、万全の信頼を置ける関係など一つもありはしないが、その中で田嶋道場と
は比較的親しい交際があったのだ。
 しかし結局、収穫はなかった。殺された時、片倉は一人で、誰も現場を目撃
してはいなかった。これまでの三件と同じように。警察ならばここで片倉の近
況や交友関係などを聞き込むものなのかもしれないが、片倉が具体的にどう殺
されたのかを知りたいだけの十四郎に、そんなことをする意味はない。それに
やったところで、大した情報は聞けなかったろう。田嶋道場の人間は既に片倉
康平という人間を過去の存在と認め、忘れ去り、それよりは今回の事件で大き
く傷付いたであろう道場の威信を回復させる方法に心を向けているようだった。
 そんなものだ。この東京で、死者に構うほど余裕のある人生を送っている者
などそうはいない。いるとすれば、十四郎のような者と、田嶋道場を出て公共
墓地へとやって来た彼がそこで出会った人物のような者だけだろう。
 つまりは、死者から何かを得ようとする者と、死者の相手を仕事とする者と。
「片倉康平の死体はどこだ?」
「誰だよ、そりゃあ」
 十四郎の問いに、老境の墓守は馬鹿にしたような声を返した。
 匂いからして安酒と分かるボトルを呷り、かっ、と息をつくと、赤味がかっ
た目で十四郎を見やる。
「死人の名前なんぞ知らねえ。おれは餌を欲しがって寄ってくる犬や鴉を追い
払うのが仕事だよ……時々、昼寝してる隙にボリボリやられちまうこともある
がな」
「一昨日殺された奴だ。多分、ここに来たのは昨日じゃねーかな? 運んでき
たのは剣術道場の人間だ」
「ああ……揃いの剣道着の連中が持ってきたやつか。それならまだ埋めてねえ
よ。そこの倉庫の中に置いてある」
「見てもいいか?」
「好きにしな。でも犯すんじゃねえぞ。変態野郎」
 けはは、と自分の言葉に受けて笑い出した墓守に背を向けて、十四郎は示さ
れた倉庫の中へと入っていった。
 中は暗い。だがドアの脇にスイッチがある。押してみると、天井の裸電球が
点灯し、周囲を弱々しい明かりで照らし出した。
 錆びの浮いたスコップ。朽ちた棺桶。何やら石版のようなもの。積み上げら
れた古新聞。そして、真新しい棺桶。
 十四郎は白木造りの棺に歩み寄り、蓋に手をかけた。
 鍵などは掛かっていない。一息に、開ける。
 棺の中で、それは窮屈そうに横たわっていた。片倉康平。直接顔を合わせる
のはこれが初めてだが、間違いはない。以前に武道雑誌で見た写真と同じ、鋭
角的な容貌をした長身の男だ。
 両目は、かっ、と見開いて虚空を見つめている。あの墓守は当然として、道
場の仲間は目を閉じてやる程度の気も利かせなかったのだろうか。それとも、
死体に触れる気色悪さを押してそうすることに何の意味があるのだと自問して
答えを出せる者が誰もおらず、そのままにされたのだろうか。
 十四郎には、どうでもいいことだった。色の失せた顔から視線を外し、受け
ている筈の傷を探す。
 致命傷になるほどの大きな傷は、見当たらない。ならばとひっくり返してみ
て――結構な難作業だったが――それを見つけた。項から肩甲骨までを斬って
いる、深い傷痕。
(後ろ傷……背後から不意打ちか?)
 それは有り得ないことだった。
 聞いたところでは、片倉も他の三人の被害者も抜刀はしていたのだ。正面か
ら襲われたのは間違いない。
 では、逃げようとしたところを背後から斬られたのか。
 自問に、首を傾げる。どうも納得出来ない。逃げるところ、つまり敵から離
れつつあるところを斬られたにしては、傷が深すぎるように思えた。片倉が自
ら背を向けたのではなく、犯人がフェイントを混ぜた素早い動きで背後をとっ
たのだろうか? それは口にすれば一言だが、実際にやるとなれば神業の部類
に入る。
 良く観察すると、傷は肩甲骨から入り、首に達して頚骨を砕いているように
見えた。
 背をとられたところに下からの斬り上げを受けた、と見えなくもなかったが、
だとするとここでも傷の深さが引っ掛かる。斬り下げと違い、重力に逆らう形
になる斬り上げは刃先に力が乗りにくいのだ。
 ならば――十四郎の頭に妥当と思える推測が浮かぶまで、一分ほどだったろ
うか。
 背の他に目立った傷はない。それを確認して、十四郎は棺を閉じ、立ち上が
った。
 電気を消し、倉庫を出る。
「用は済んだのか」
「あー」
 先刻と同じ場所で、同じように酒瓶を抱えながら声をかけてきた男に、適当
な返事を返す。
 墓守はまた、けけ、と笑った。
「もう来るなよ、変態。死体なんざ東京の何処にだって転がってんだからよ、
他のとこで楽しめや」
「そうするよ。あんたの酒の肴を横取りしたくない」
「けははっ、良く分かったな! お前が見てた死体、ありゃ今日の晩飯だよ。
刺身にして、醤油つけてな。酒と一緒に、こう。……げははははっ!!」
 またも自分の冗談で大笑いする墓守の男に、十四郎はひとつ肩をすくめると、
闇に閉ざされ始めた公共墓地を立ち去った。


(倒れたところを、上から斬られた)
 そう、結論する。間違いはないだろう。
 あまり参考にならない結果だと言えた。
 不意の襲撃に焦った片倉は足をもつれさせ転倒し、振り下ろされた襲撃者の
刃を為す術もなく受けた。そんなところか。
 襲撃者の技量を推察するための材料には、全くならない。強いて何かをこの
調査結果から得ようとするなら、危険には落ち着いて対処しましょう、慌てそ
うになったらまずは深呼吸、というところか。
 つまらない。十四郎は鼻を鳴らした。そんなのは、わざわざ晩飯前に死体を
調べるような苦行をしなくても、区役所の掲示板にでも行けば書いてあるよう
なことだ。
 いささか興を削がれた心持ちで、十四郎は夜の街を歩く。
 昔からそうだったが、この街にとって夜とは、単に時間的な区分けでしかな
い。昼であろうと夜であろうと、自然と人工という違いはあるにせよ、街は光
で照らされている。道行く人々の姿が絶えることもなく、彼らを迎え入れる店
が門扉を閉ざすこともない。
 人々は、十四郎には近付かない。むしろ避けている。多くの者は、十四郎に
行き会うと露骨に迂回した。十四郎の吐き出す敵意が届かない距離まで離れ、
足早に行き過ぎていく。
 敵意を露わにすること。それは、卑屈に隠れず堂々と歩きながら、この街で
はいつでも幾らでも降りかかり得るスリ・恐喝・暴行といったトラブルを未然
に避けるための知恵だった。略奪者たちは、弱者をのみその標的とする。殴れ
ば殴り返してくる手合いは回避する。敵意には敵意を返す類の人間もいるが、
挑発的ではなく排他的な敵意を見せる十四郎とは、ちらりと目を見交わしなが
らすれ違うだけで終わる。たまにそういった機微などまるで理解せず、下品な
悪意を見せ付けて絡んでくる餓鬼もいるが、その時は修行の一つだと思って相
手をしてやるだけだった。それで負傷、あるいは命を落とすことがあっても、
十四郎は後悔しないつもりでいる。
 老成した者がそんな十四郎を見れば、青臭い若さだと言って笑うことだろう。
それは別に構わない。実際、自分は若いのだから。若さに似合わぬ賢明な人生
を歩んだとして、それに自分自身が不満を抱くのなら、そんな賢明さに何の意
味があるというのか。
 見えざる壁で触れることなく人々を押し退けながら、十四郎は家路を辿る。
 考えていたのは、既に片倉のことではなかった。晩飯。流石に肉は食う気に
ならない。ラーメンという気分ではない。蕎麦でもうどんでもない。現在全品
百円引きというのぼりを据えたスパゲティ専門店が目に入ったが、嫌いなもの
を安いからという理由で食べるほど貧窮してはいない。カレー。野菜カレー。
そう、その線だ。
 結論を出して、近場のカレースタンドの場所を頭の中の地図で探し始めた、
その矢先のことだった。
 耳障りな音を撒き散らしつつ後方から駆けてきた一台の車が、十四郎の脇で
停止する。そちらを見やり、今度は目障りな光を直視させられて十四郎は顔を
顰めた。
 パトカーである。規格品ではなく、サイレンを外せば普通の車と変わらない
ものだ。
 見覚えのある車だった。誰のものだったか、記憶の箱を探るまでもなく、そ
の人物がサイドウィンドウを開いてがっちりとした上体を覗かせる。
「丁度いい所で会った……乗れ」
「逮捕状はあるのか?」
 男の言葉に、十四郎は冗談半分本気半分の軽口を返した。東京の治安が悪く
なったからと言って、それに応じて法律が緩くなったりはしない。東京にふさ
わしく生きるということは、法の枠を無数に踏み越えながら生きるということ
でもある。だが十四郎は、今の腑抜けた警察に確実な証拠を捕まれるような犯
罪行為をした覚えはなかった。
 もっともこの男なら、普通の警察官が投げ出すような事件でも、犯人を突き
止めてしまうことが有り得るのかもしれない。
 葦名弘行。歳は四十か、五十か。元機動隊、現捜査課の警察官である。新陰
流剣術の免許皆伝者として武道界では知名度が高く、天心館にも時折顔を出す。
また、今の東京では珍種と言うべき、真面目に仕事をする警察官としても有名
だった。真剣に事件を分析し、執念深く犯人を追う。とはいえ、同僚の誰も彼
に協調せず、刑事の仕事は一人で完遂できるものでもないので、その努力が実
を結ぶことはほとんどないらしかったが。
「現行犯だ。銃刀法違反」
「登録証なら持ってるよ」
 刀袋を担ぎ直しつつ、鼻で笑う。十四郎は外出する時は必ず刀を携帯してい
るが、それは珍しいことではない。護身用の武器を常に身に付けておくことは
常識だ。刀は護身用としてはいささか大仰だが、剣術道場に通っている者なら
携帯を許される。何か特別な法律によって認められているという意味ではなく、
警官に見咎められても登録証を見せて道場に行く途中なのだと言えば逮捕され
ることはないという意味でしかないが、東京の剣術使いの多くはかつての武士
の如く常時帯刀することを好んだ。十四郎のように、殺された四人の剣士のよ
うに。
 十四郎の軽口に付き合いながら、しかし葦名の表情は厳しかった。苛立たし
げにハンドルを指で弾くと、十四郎を再度、促す。
「いいから、乗れ。急いでいるんだ」
「善良な市民はこれから晩飯食いに行くつもりだったんだけどな」
「カツ丼でいいなら後で食わせてやる」
「本気で逮捕しようってのか?」
「今回は違う。お前は犯人ではなく関係者だ。……ほら」
 後部座席のドアが開かれる。十四郎は一瞬躊躇したが、葦名の態度から冗談
事ではない用件があることは間違いないようだと見て、それ以上余計な口は叩
かず車に乗り込んだ。
 十四郎がドアを閉じたか閉じないかという内に、車が発進する。
「危ねえな。怪我したらどーする」
「保険には入っているだろう」
「そのギャグで笑えってのか?」
「冗談に凝れる気分じゃなくてな」
「珍しい。『正義のおまわりさん』なんて冗談かまして生きてるあんたが」
「私は真剣なだけさ。冗談は、この街の方だ」
 必要最低限としか思えない減速をして、T字路を右折する。
 道路の真ん中で座り込んでいた、見るからにチーマー風の連中が慌てて逃げ
散るのを眺めながら、十四郎は窓に打ち付けた側頭部を手で撫でて舌打ちした。
「おい……今の、下手したら轢いてたんじゃねえ?」
「轢いても構わなかった、程度のことは思っている」
「前言撤回するよ。あんたがやってる冗談は『はっちゃけおまわりさん』だ」
「冗談はこの街だ」
「そればっかだな……」
「事実だからさ。あいつらや、お前のような奴が、大手を振って街を闊歩し、
毎日毎日そこかしこで刃傷沙汰を起こす。これが冗談でなくて何だ? それも
質が悪い。悪すぎる。最悪だ」
「昔は良かった、とでも?」
「ああそうさ。昔は良かった。あの頃だって反吐が出るようなことは幾らでも
あったが、それでも今よりはマシだった。少なくとも、お前らみたいな宇宙人
に占拠されてはいなかったんだからな。もし東京をあの昔に戻せるなら、お前
らを全員刑務所にぶち込んで火をかけるくらいのことはしてやろうさ」
「戻らねえと思うよ。ゴーストタウンにあんたが一人、だ」
「だろうな。分かってる。まともな奴らはとっくの昔にこの街を見捨てて出て
行っちまった。もう二度と戻ってこない。来るのはクズだけだ。今のクズ共を
駆逐しても、別のクズ共がやってきてまた冗談の街を造り上げる」
「なんか今日は随分とナーバスだな、あんた……」
 付き合いきれない、と言いかけて――十四郎は、思い出した。葦名の精神が
ささくれ立っている、おそらくはその理由。連続斬殺事件の最初の犠牲者。葦
名と同門、新陰流の沢田和樹。歳は離れていたが、確か葦名とは同じ師のもと
で学んだ兄弟弟子の間柄だった筈だ――
「沢田の馬鹿も……」
 十四郎の心を読んだかのように、葦名はその名を口にした。
「何だって、刀を担いでうろついたりしやがるんだ。そんなに格好つけたいの
か? 武士の真似事するのがそんなに格好いいのか? 身を守るため? 嘘を
つけ。刀なんぞ持ってなければ、戦って斬られることもなかっただろう。回れ
右してダッシュして、命を拾っていたはずだ。どこが護身だ。全然身を守って
ないだろうが!?」
「…………」
「お前らは化け物だ。私には理解出来ん。もう私に関わるな。私に近付いて、
その後で馬鹿な死に方をしたりするな。せめて最初から赤の他人でいろ」
「…………」
「沢田のことは、我慢しようさ。今度も、ああ、忍耐力を発揮してやろう。だ
がここまでだ。三度目は御免だ。いいか、御免だぞ。分かってるか? お前に
言っているんだぞ、比企……」
 もう葦名が何を言っても黙って聞き流そう――十四郎はそう決めていたが、
しかしその一言は黙過しかねた。
 自分の名を呼ばれたことではない。
「今度も?」
 引っ掛かった言葉を、そのまま口にする。意味は伝わっただろう。だが葦名
は、何も答えてこなかった。その後は口を引き結び、ただハンドルを握ってい
た。
 数分の沈黙を経て、車が止まる。
 場所は、常緑樹が立ち並ぶ遊歩道の入り口だった。何も言わぬまま、葦名が
車を降りる。十四郎もそれに続いた。
 十四郎が空腹感を思い起こした頃、葦名の歩みが止まる。そこは、遊歩道に
数箇所ある円形の休息所だった。ベンチが二つ、水道が一つ設置されている。
それらの中で、葦名の同業と思しき人間が四人、だれた空気を漂わせながら、
何かを囲んで作業をしているようだった。
 近づく葦名を見て、四人が黙って人垣を解く。
「来い。比企」
 言われるまま、十四郎は歩み寄った。
 そこに、何が有るのか。教えられずとも、既に立ち込めた濃密な匂いが十四
郎に解答を与えていた。
 警察官の一人が、懐中電灯をそれに向ける。
「……っ」
 意志の制御を離れた口元が、大きく引き歪むのが分かった。
 左耳に、ぎじり、という不気味な音が入り込む。おそらくは、葦名の歯軋り
だろう。
 それ。
 血溜まりの中に倒れ伏す骸の顔は、二人の良く知ったものだった。
 決して大きくはないが、深い傷――鋭い刃物を突き刺されたのだと一目で分
かる――を背中に作り、
 綺麗に伸ばした黒髪を、今は血と泥に塗れさせている少女。
 名を、蔵早由李といった。


 天心館は、都内では静穏な部類に入る区域に存在する。
 周囲は住宅地帯。なので、稽古時の騒音に苦情を訴えられたことも一再では
ない。竹刀を打ち合う音、床を踏み鳴らす音、轟くような気合。朝や夜は避け
ているとはいえ、休日の昼寝を妨げられたり、ようやく寝かしつけた乳児を叩
き起こされたり、受験勉強のための集中を乱されたりすれば、文句の一つや二
つや三つは言いたくもなるだろう。それに対し天心館は、礼儀正しい相手には
謝罪と説得をもって、最初から喧嘩腰の相手には威圧と必要なら暴力をもって
応じ、これまで道場の存立を認めさせてきた。
(……なのに、不思議なもんだ)
 十四郎の胸中に、奇妙なおかしさが湧く。
 ここ一週間の騒々しさは、それ以前の比ではない。比喩でも何でもなく四六
時中、道場からは怒号が大量出荷され、時には物が砕ける音までもがそれに混
じる。一体何人の人間の安眠を妨害、というより破壊しているだろうことか、
見当すらつきはしない。
 にも関わらず、この一週間で付近の住民からの苦情の訴えは一件もなかった。
一度だけ、若い警官が静かにするよう勧告に来たことがあったが、彼も道場代
表の顔を見るや逃げるように帰っていった。その前に、早口で用件だけは述べ
ていったあたり、むしろ立派だったと言っていいかもしれない。
(返事を待つほどの度胸はなかったようだけどな……当然か)
 十四郎はくるりと首を回し、館長不在の間道場の代表を務める男の姿を眺め
やった。
「一体何をやっている、貴様ら!!!!!」
 それを狙いすましたかのようなタイミングで、雷が落ちる。十四郎は思わず
首をすくめた。
 だがその男、神代将人は、十四郎の方など見てはいなかった。彼に横顔を向
ける形で、逃げ腰になっている門下生たちを見下ろしている。
 かっ、と見開いた双眸。幾筋もの裂け目から血を流している唇。両手には大
身の槍。その姿は人間というより、もはや仁王像だった。
「蔵が死んでからもう一週間、一週間だ!!
 これだけ時間が経って、未だに犯人の手掛かりの一つも掴めず、だと!?
 貴様ら、真面目に探してんのかあっ!!!」
(探してねえって)
 声にはせず、呟く。そんな事は、門下生たちの迷惑そうな表情を見れば自明
だ。しかし、脳溢血を起こさないのが不思議なほど頭に血を上らせ続けの将人
には、それが全く見えていないらしい。
 普通の門下生たちにとっては、天心館の名誉などどうでも良い事だ。この道
場が没落したら別の所に行けばいいと思っている。代わりは幾らでもあるのだ
から。それとは別に、蔵早由李の死への哀悼の情は、無くはないのだろうが、
さして強いものでもないようだった。早由李が嫌われ者でなかったことは間違
いない。しかし早由李は掛け値なしに強く、一般門下生の大半を占める男達は
例外なく彼女に叩き伏せられた経験を持っていた。男の本能は女性を力で屈服
させることを望む。その逆をやってくれた早由李の死に、彼らの多くは暗い爽
快感を心の何処かで覚えずにはおれないのだろう。十四郎とて、自分より強い
女が現れてそれに殴り倒されたら忸怩たるものを感じずにはいられないだろう
から、彼らの気持ちを理解出来なくもない。
 だが十四郎自身は、早由李を殺した犯人、そしておそらくは片倉ら四人の剣
術使いをも斬った犯人を、本気で突き止めようとしていた。
 あの日、早由李は十四郎に同行したがった。あの時拒まずにいれば、早由李
は死なずに済んだかもしれない。そう思う。だがそれは大したことではない。
だからどうした、と十四郎は言える。十四郎には早由李の面倒を見てやる義理
はなかった。友誼は存在した、と信じられるが、それも自分の世話は自分です
るという前提の上にあった筈だ。互いに支え合う関係などではなかった。だか
ら、そんなことが理由ではない。
 天心館の名誉回復。それも違うだろう。一般門下生と違って、内弟子的な立
場にある十四郎は道場に対して愛着と呼ぶべきものを持ってはいるが、命懸け
で守ろうとする気概までがあるかと自問すれば、疑問のまま残った。
 それでも十四郎の心には、激しい衝動がある。万難を排して暗殺者を探せと
命じる声がある。その理由は、結局のところ十四郎自身にも分からない。
 案外、将人の怒気から早く解放されたがっているだけなのかもしれなかった。
さすがの将人も十四郎には頭ごなしの怒声をぶつけたりしないが、それでも側
で聞かされ続けていれば胃袋に穴の一つも開きそうになる。
 門下生たちの探索――実際は遊び歩いているだけだろうが――に、十四郎と
将人は加わっていなかった。将人は常に道場で待機し、門下生からの報告があ
ればいつでも動けるようにしているからだが、十四郎の事情はそれとは異なる。

16:59 Created
16:59 *** 14th has joined channel #ulus
17:00 gama>おいでませ。
17:00 14th>情報が入ったって?
17:01 gama>挨拶くらいしろ(笑) 有望そうなのがいくつかね。

 十四郎は自分のノートパソコンを使い、インターネット上で情報を集めてい
た。とはいえ、さしてネットに詳しいわけでもない十四郎一人では限度がある
ので、情報通の友人に協力を頼み、彼とチャット――ネット世界の談話室みた
いなもの――で連絡を取りながら調査を進めている。

17:02 gama>あちこちのアングラ系を回ったぞ。お陰で頭が膿みそうだ(笑)
17:02 14th>ご苦労さん。
17:02 gama>礼は?
17:03 14th>今やったろ。誠意を込めた感謝の言葉を。
17:03 gama>帰っていいですか?
17:04 14th>次にオフで会った時に、酒と飯。
17:04 gama>オーケーオーケー。

 アングラ系とは、文字通り一般の目には触れないよう地下(アンダーグラウ
ンド)に潜っている、倫理道徳とは無縁なホームページや掲示板を言う。十四
郎らがその筋から捜査をするのには、理由があった。
 一週間前に交した、葦名との会話を思い出す。
『殺された奴らは、どいつも道場に所属する剣術使い。手口の酷似からして犯
人はほぼ間違いなく同一。しかし、被害者間の関連はこれといって無い。
 ならば、こいつはおそらく始末屋の犯行だ』
『始末屋?』
『噂くらいは聞いているだろう。武道家殺しを生業とする存在。その仕事の多
くは、敵対する道場の要人を殺して勢力を弱めようと欲する道場経営者による
依頼。今の武道道場は競争の激しい業界だからな、そんなふざけた職業を成立
させてしまう。今回も、おそらく。
 ここまで派手に仕事をする奴は初めてだが、まず間違いはないな』
 この話を、十四郎は将人には教えていなかった。教えれば、将人は天心館と
仲の良くない道場を調べようとするだろう。だが天心館の敵は多すぎる。とて
も的を絞れるものではない。それでも直情径行の将人は怪しい道場に片っ端か
ら飛び込んでいくだろう。つまりは、無駄にトラブルを起こすだけだ。
 十四郎は、誰が始末屋に依頼したかは気にしていなかった。数多い敵対者の
誰がやってもおかしくないのなら、誰であっても同じことだ。敵とは戦わねば
ならないのだから、いずれはその全てを叩き潰すことになる。それでいい。今
はそれより、実行犯だ。
 始末屋。彼らは依頼人と連絡を取る場所として、おそらくインターネットを
活用している。開放性と閉鎖性を都合良く兼ね備えた情報世界は最適の筈だ。

17:05 gama>その始末屋に繋がりそうな書き込みのある掲示板とかを四つばかし
見つけた。アドレス出すぞ。
17:06 14th>頼む。

 その見当は的外れではなかったらしい。十四郎が最初に想像していた以上に、
情報収集は順調に進んでいた。
 しかし、着実な成果を挙げながら、十四郎の心に高揚するものはない。興奮
はある。だがそれは、追い詰められた者が感じる、危機的なものだった。追い
詰める者の意気ではない。
 十四郎には、分からないのだ。犯人を突き止めて、その後どうすればいいの
か。無論、斬る。それは決定というより唯一の選択だ。司直の手に委ねたとこ
ろでどうにもなりはしないのだから。問題なのは、斬る方法だ。
 偽の依頼をして誘い出し、そこを圧倒的多数で押し包んで斬る。妥当な方策
だと言えよう。しかし妥当過ぎるこの罠に、場慣れしているだろう斬殺犯がみ
すみす嵌まるとは思えなかった。おそらくは囲まれる前に感付いて逃走し、二
度と天心館の人間の前には現れまい。

17:08 gama>ここの3ページ目、五番めの書き込み。

 一人でやる決意は固めていた。
 その決意が辿り着く先に、光明ではなく暗黒が見えるのだ。殺された五人は
皆、十四郎と同等以上の使い手だった。十四郎が挑んでも、始末屋の六人めの
犠牲者としてその戦歴を飾ることになる可能性が高い。いや、確実にそうなる。
強さとは絶対的な面より相対的な面の方が大きいものであり、AがBより強く、
BがCより強いからといって、Aは間違いなくCより強いかといえばそうとは
限らないものだ。が、これまでの事件で一度も犯人のものと見られる血痕が発
見されていないという事実は、五人はろくに反撃も出来ないまま斬られたとい
う別の事実を浮き彫りにする。それが意味するところは、始末屋の力量が圧倒
的だということだ。
 十四郎の背は、暗殺者を斃せという衝動に突き押されている。その向かう先
に広がるのは奈落の穴。十四郎は確かに追い詰められていた。

17:12 gama>あと、ここの日記。ここは嘘は書かないことで有名なとこだ。

 始末屋がどのような技を駆使するのか、それを掴めれば勝算の立てようもあ
るかもしれない。だがそれには情報が不足していた。五件のうち、被害者の死
体の状況まで詳しく知ることが出来たのは二件だけだ。
 早由李の死に様は、片倉に酷似していた。倒れたところを上から串刺し。身
体を貫通した切っ先が地面をも抉った痕跡が残っていたことから、倒れた後で
刺されたのは間違いない。
 これは偶然だろうか。そう納得することは可能だ。実戦、それも真剣を手に
しての斬り合いとなれば、どんなに胆力のある者でも焦りと無縁ではいられま
い。焦れば足元がおかしくもなろう。だが偶然でないとすればどうか。始末屋
が何らかの技術で敵手を転倒させたということは有り得るだろうか? そこか
ら思考を進めるには、やはり情報が必要だ。
 葦名なら有しているだろう。だが彼に聞くわけにはいかない。聞けば、十四
郎が自分の手で始末屋を斬ろうとしていることを察知される。そうなれば制止
されるのは目に見えているし、葦名を躱して始末屋を仕留めたとしてもその後
で今度は十四郎が葦名に追われることになる。例え相手が犯罪者でも殺害すれ
ば重罪なのだ。最近は忘れられがちなことではあるが。
 何もかも独力でやらねばならない。だが何もかも行き詰まっている――
 絡みついてくる鎖を連想させる現実に、十四郎の頭が灼けるような苛立ちで
満ちた。丁度そこにまた将人の雄叫びが轟いたことは、最悪のタイミングだっ
たろう。背後を振り返り、逆上という火で沸騰した八つ当たりという熱湯を吐
き出そうとして――

17:15 gama>で、これだ。今日の収穫の中では、一番面白いと言えば面白い。

 画面上に新しく開いたページが、十四郎の視線を奪い取った。
 友人が示した掲示板。
 その記事のひとつが、十四郎の苛立ちを一瞬で別世界へ跳ね飛ばし、その両
眼で食い入るように凝視させていた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
私、襲われましたよ 投稿者:UO沼薄井  投稿日:9月19日(土)05時08分41秒
 今噂になってる連続斬殺犯のことなんですけどね。
 襲われましたよ、私(笑) いや、冗談じゃなくて。
 二週間前の夜でしたよ。道場の帰り、新宿の路地裏を歩いている時に、いき
なり。
 顔を覆面で隠した黒ずくめの男が出てきて、刀を抜いて、んでこっちに向か
って「抜け」と。
 びびったよ、小便ちびりかけたほど(笑) 落ち着いて立ち向かった、なん
て言ったって誰も信じてくれないだろうから正直に言うけど(笑)
 でも、良く覚えてないんだよね。そこから先。上段に構えて、めちゃくちゃ
に暴れたのは何となく記憶にあるけど。私、普段は正眼に構えるけど、あの時
は興奮してたから。
 気が付いたら、誰もいなくて。死体はなかったから、逃げてったんだろうね。
 その後どうしたか? あれはどう見たって殺し屋だったし、そんなのを雇っ
て私にぶつける奴と言うと一人しか思いつかない。前にここで話したっしょ?
彼女を横取りされちゃった可哀相なA川君。取ったの私だけどさ(笑) あい
つに間違い無いと思ったから、その足であいつのマンションまで行ったよ。宅
急便だって言ってドア開けさせて、いきなり殴って(笑)ヤクザキック入れて
やったら、こっちが聞く前に白状した。今噂になってる始末屋に依頼して私を
襲わせたって。何でも、ネット巡回してる時にたまたまその始末屋が依頼の受
付に使ってる掲示板を見つけたんだと。
 その後A川をどうしたか? 六日朝の読売新聞を読んで下さい(笑)
 最初からああしてれば良かったよ。これからは気をつけないと。
 あ、その始末屋の掲示板はこちら。ここに依頼を書き込むと、犯人から連絡
が来るってシステムなんだってさ。http――
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 アングラ系に流れる情報には、分野を問わず、信用性を欠くものが極めて多
い。始末屋の掲示板とやらも開いてみたが、そこに書き込みは一件もなかった。
そこが真実始末屋の依頼受付窓口だったとして、余計な人間の目に触れる前に
依頼の書き込みを削除するのは当然の処置だと考えられるが、だからと言って
信憑性が高まるわけではない。現に、この書き込みについたレスポンスは、内
容を完全に疑っているものばかりだ。

17:16 gama>いかにも嘘臭いが……お前はどう思うよ?

 十四郎は、情報の真偽など気にも留めていなかった。正確に言えば、考える
ことなく真実だと決めていた。十四郎の思考はその時既に、追い込まれた状況
を切り開く一筋の光を示した、その一文の吟味に集中していたからだ。
(上段に構えて暴れたら逃げた?)
 思い当たることがある。
 沢田和樹、竹村良雄、太田達也、片倉康平、蔵早由李――十四郎の知る限り、
彼らは全員、剣先を敵の喉(流派によって若干の差違はある)に向ける基本的
な構え、正眼からの技を得意としていた。特に早由李に関しては、正眼以外の
構えをとったところを見た覚えがない。
 始末屋の技術は彼らを圧倒し、一方的に殺戮した。
 だがこの書き込みの男、上段をとった男と相対した時は、始末屋は戦うこと
なく退いた。
 ――それは、つまり。
 意識せず、呟きが声に出る。誰も聞いてはいなかったようだが。
「始末屋の技は、対正眼用…………?」
 そうなのだろう。この書き込みのことを抜きにしても、五人の被害者が全て
正眼の妙手であることを偶然とするのは出来過ぎている。正眼は確かに基本だ
が、剣術の構えは他に幾らでもあるのだから。
 恐らく始末屋は、殺人の依頼をされると、まず標的のスタイルを調べ、それ
が正眼を使う場合に限って依頼を受けるのではないだろうか。実際に相対して
みて正眼だったら戦い、他の構えだったら逃げるというのはリスクが大き過ぎ
る。この書き込みの男も普段は正眼を使うと言うから矛盾はしない。
 だが、十四郎の思考は、そこで再び停止した。
 上段に構えれば、始末屋は退く。その可能性は高い。だがそれでは意味がな
いのだ。片倉の死体を調べていた時とは違い、今十四郎が知るべきは始末屋に
襲われた時に生き延びる方法ではなく、始末屋を斬る方法なのだから。始末屋
の望む通り正眼に構え、そこから勝つ術を見出さねばならない。その意味では、
依然として全く進展がなかった。
 情報が必要だった。始末屋の、正眼に対しては必殺なのであろう技術を看破
する材料になる、被害者の情報が。警察に聞くことは出来ない。自力で調べね
ばならない。その方法は――
 十四郎は、暫し黙考し……やがて、一つの決断を下した。

17:20 gama>おーい、どうした?
17:21 14th>情報、感謝。ちょいと用が出来たからこれで失礼。また連絡する。
17:21 *** 14th has left


 東京は変化の激しい街だ。
 人も、建物も、それら全てを含んだ街並みも。友人がいつの間にか消え、彼
の住んでいたアパートがコンビニになり、閑静な住宅街が商店街に変わる。そ
してそのまま停滞することなく、また少しずつ別の何かに。
 それでも変わらないものはある。朝を呼ぶ太陽のように、夜を照らす月のよ
うに、人の手が及ばないもの。
 それと、人から忘れ去られたもの。
「また来たのかよ」
「また来たんだよ」
 忘れられた墓地で、何も変わらない墓守が、あの時と同じように酒瓶を傾け
ながら十四郎を迎えた。
 酔眼を赤い侮蔑で満たし、十四郎を見やる。
「今度は何の用だ」
「竹村良雄と、太田達也の墓はあるか?」
「知らねえってんだろ」
 ばぁか、と嘲って、老人は酒を喉に流した。
 これが、この墓守の楽しみなのだろうか。十四郎はそう思った。十四郎を、
この街を、あるいは彼自身もか? それら全てを侮蔑し嘲笑しながら、旨くも
なさそうに酒を呑むことが。この世に神というものがいて、この街を見下ろし
ているとしたら、きっとこの老人と同じことをする。そんなことも思った。
「そいつらの死体はここに運び込まれたのか?」
「そう聞いている」
「ならどっかにあるだろうよ。犬に食われてなけりゃな」
「あんたは?」
「ああ?」
「食った覚えはないか? その二人」
 けははっ、と墓守は笑うと、さぁどうだったかな、と呟き、再度笑った。
 その脇を歩き過ぎる。
「探させてもらうよ」
「探してどうすんだ?」
「掘り返す」
「くへぇっ」
 墓守がまたおかしげな奇声を上げるのを背中に聞きながら、十四郎は墓地を
廻り始めた。
 掘り返すのは、無論、死体の傷を調べるためだ。公共墓地へ葬られる骸なら
ば、火葬されずにそのまま埋められる可能性は高い。そこまで手間をかけて葬
ってくれるような縁者がいなければこそ、この寂れた地で眠るのだから。
 墓の数は多く、しかも乱雑だった。規則正しく並んでいない、というだけの
意味ではない。墓の形状も、十字架のほか、石版を置いたもの、土で小さな山
を作ってあるもの、ここには不似合いなほど立派な仏教式のもの、はたまたそ
の辺に転がっていそうな石を積み上げただけのものまで、千差万別だった。
 美術展のような墓標の群れを一つ一つ調べ、目的の名を探す。
 最初に見つかったのは、太田達也の墓だった。高さ1メートルほどの直方体
の石に、名前だけが刻まれている。
 十四郎はまずそれを手で動かそうとした。重い。ならばと突き蹴りを入れて
みると、大きく揺れた。その揺れが収まらないうちにもう一度蹴り込む。する
と、地響きを立てて墓石は倒れた。
 先日立ち入った倉庫からスコップを持ち出し、その鉄爪を地面に突き刺す。
土は柔らかくはないが、さして固くもない。十分ほどで棺を見つけ、三十分ほ
どで掘り出した。
 棺には蝶番が掛けられている。スコップでそれを叩き壊すと、十四郎は足で
蓋を開かせた。中に横たわるそれが、夕陽に照らされる。
 安眠を破られた太田達也の姿は、想像していたほど酷くはなかった。夏の盛
りは過ぎていたことが幸いしているのだろう。体型が崩れ始めてはいるが、遠
目には分からない程度だ。
 身体の前面に、刀傷は見られない。半ば予想していたことだった。スコップ
を骸の下に差込み、めくり上げてみる。
 あった。肩裏から首に至る傷。すぐに思い出す。それは、片倉康平が負って
いた致命傷に酷似していた。
 他に傷がないことも一致している。十四郎は太田を埋め戻すと、もう一つ、
竹村良雄の墓を探した。
 この時既に、十四郎の脳内では一つの推理が構築されつつあった。恐らく竹
村の調査は、その確認作業にしかならないだろう。
 ほどなく発見した竹村良雄の、これは十字架だった墓標の根元を発掘する。
スコップの最初の一刺しで、土ではない何かを抉った感触があった。手首を返
すと、土に混じって木屑が地表に飛び出す。随分と浅く埋められていたらしい。
 やがて現われた棺は、中の様相を想像させずにはおかない腐臭を存分に放っ
ていた。顔を背けて息を吐き、深く吸い込み、そして止めて、棺を蹴り開ける。
 胎を据えていた十四郎は、仰天することはなかった。無性に唾を吐きたくな
った程度だ。その衝動を抑え、手早く遺骸を検分する。
 背中を長方形と見て、その対角線をなぞる形で斬られていた。背骨が完全に
断ち切られている。分かったのはそれだけだった。他に傷は、もしかするとあ
ったのかもしれないが、もはや判別が出来ない。
 肺が空気を求めていた。墓から離れ、息を吸い込む。丁度その時、何者かの
悪意によって吹いたとしか思えないそよ風が、墓との距離を無意味にしてくれ
た。腐肉を詰められたような感触が身体の内側に広がる。堪えていた唾を吐き
捨ててから、十四郎は墓に戻ると手早く埋め戻した。
 口を漱ぎたい気分だったが、手近に水道は見当たらなかった。あったとして
も、この墓地の水では口に入れる気になれなかったろうが。スコップを倉庫に
戻し、通用門へ向かう。
 枯れ木に背を預けていた墓守は、十四郎を見ると、へっ、と鼻を鳴らした。
 友人に笑いかけるかのような自然さでその表情に浮かぶ、侮蔑。
「もう来るなよ。てめえが死体になるまではな」
「そうするよ」
(……とすると、またすぐに来ることになるかな)
 暗い墓地から昏い街へ踏み出しながら、十四郎はちらとそんなことを思った。


 ――この街が変わり続けていると感じるのは、錯覚かもしれない。
 一週間前と同じ道を、同じように歩く。
 変わってはいる。記憶にあるものとは違う佇まいを見せている店舗。増えて
いるようにも減っているようにも思える小路。顔を知りもしない人々。変わら
ずに残っているものの方が、あるいは少ないのかもしれない。
 だが、結局のところ、何も変わっていないのだ。店は客を待ち迎え送り出し、
道路は街を細分化し接続し、人々は行き交い十四郎を避けてゆく。
 東京は、いつまでも東京で存り続けるのだろう。その内で何千何万という変
化を積み重ねながらも、決して他の何かに化すことはなく。幾つもの時代の幾
人もの楽師によって演奏され続ける名曲のように、それとも幾多の教育を受け
無数の芸を覚えても人間にはなれない猿のようにか、変化しながら変身を拒否
し続ける。いつか全ての被造物が朽ち果て、人間の最後の一人が去りゆくその
時まで、ずっと。
 変わらない街を、敢えて変えようとも殊更に守ろうとすることもなく、ただ
その中を自分の思考に埋没しながら歩み行く十四郎もまた、変わらざるものの
一つなのだろう。
(始末屋は、正眼の使い手を転倒させる技を持っている……)
 その結論には、確信があった。例外なく正眼を得手とする被害者。調査出来
なかった沢田を除く四人に共通する背中へ致命傷。その内の三つは、倒れたと
ころを斬られたとしか思えない深さと形状を有していたことを確認。これら発
見した事実の全てが、同じ方向を示している。
 では、具体的にどのような技なのか――
 対正眼専用の必殺技術、そこから十四郎がまず最初に思い浮かべたものは、
巻技だった。手首の巧妙な回転により自分の刀で敵の刀を巻き込み跳ね飛ばす
高等技術。これは正眼相手にしか使いようがないうえ、決まればそこで勝負は
ほぼ確定だ。だが深く吟味するまでもなく、これでは倒れた後で背中を斬られ
ていることの説明がつかない。落ちた刀を拾おうとしたところを上から斬られ
たか? 敵の前で致命的な隙を晒すような愚行を、五人全員がやったとは思え
なかった。
 脛斬りだろうか。剣術使いにとって弱点の一つとなる下脚部への斬りつけで
ある。基本的に重心は心持ち前へ置くものだから、前足を斬られれば間違いな
く俯せに倒れるだろう。そこに上から斬撃。納得出来る推論、のように思える。
正眼以外の構え、特に上段をとった相手に使うと、足を斬る代わりに頭を割ら
れる危険があるので、この点でも問題はない。だが脛斬りは効果的な技だけに
対抗策も研究されている。被害者のうち少なくとも早由李は、前足の踵で自分
の腿裏を蹴るという単純で有効な防御手段を心得ていた筈だ。他ならぬ十四郎
が教えたのだから間違いない。他の四人とて、その程度のことを知らなかった
とは考えにくい。それにそもそも、被害者たちの足に傷はなかった。
 鍔競り合いの状態から、敵の足に自分の足を絡めて押し倒す、足搦の技とい
うものがある。剣道の試合では反則とされるが、実戦剣術では昔から今まで伝
えられ使われている技術だ。しかし五人の剣達者なら、密着状態になる前に技
の一つ二つは繰り出せようし、いかに始末屋が凄腕と言えどその全てを完全に
防御し手傷の一つも負わないなどということが為し得るだろうか。それは大い
に疑問だった。
 考えの方向性を変えてみる。技ではなく、トラップを仕掛けていたというこ
とはないか。襲撃現場を水浸しにしてぬかるませ、もしくは油を撒いて、滑り
やすくしておく。……利用の仕方次第では恐ろしい罠になるだろう。だがそん
な痕跡は全く残っていなかった。では少しアレンジして、こういうものはどう
か。襲撃現場にあらかじめシートを敷いておく。標的がその上に乗った瞬間、
端を掴んで引っ張り転倒させ、素早く駆け寄り刀を一閃。しかる後にシートを
回収して退散。……いや、それも矛盾がある。それなら、地面に残った血痕は
不自然な様相を呈していなくてはならない筈だ。足首の高さに張られたピアノ
線というのは? 走って突っ込みでもしなければ転倒はすまい。重りのついた
紐を足に投げつけて絡み付かせ、引っ張って転ばせる? 並みの腕力で出来る
ことではない。それにそれならば、必ず仰向けに倒れる。背中に傷を受けるこ
とは有り得ない。ならば毒ガスは。そんなものを使っていたなら、警察の遺体
調査で判明するに決まっている。
(分からない……俺は何を見落としている? 何を勘違いしているんだ?)
 十四郎は、思考の迷宮に陥っていた。どの道筋を辿っても行き止まりの壁に
阻まれ、いっかな真実というゴールに辿り着けない。何処かに正しい道はある
筈なのだ。だがそれを見出せない。それとも最初からないのか? 根本的に自
分は誤りを犯しているのか? そうだとしても、新しい考察の方向を示すもの
は何もない。
 斬らねばならないのに。十四郎は我知らず歯噛みした。始末屋は自分の手で
斬らねばならないのだ。逃げることは出来ない。忘れ去ることも出来ない。敗
北することも許されない。戦って勝利せねばならないのだ。例えそうまでに自
分を駆り立てるものの正体が何であるか、自分自身が知らなかったとしても。
この命題を果たせないのなら、十四郎は十四郎であることを否定する以外にな
いのだと、心の底で耳の奥で脊椎の中で、叫び立てる声がある以上は。
 それでも立ち塞がる壁は破れない。乗り越えることも出来ない。迂回しても
また別の壁が現れる。壁が。壁。壁。壁。壁壁壁壁壁壁壁壁壁――
 どんっ。
 まさしく壁に激突したかのような衝撃が、十四郎の肩に走った。現実と思考
が混合し、一瞬の錯乱を生む。だがそれはすぐに鎮静した。十四郎と衝突した
現実が、極めて理解の容易な形をしていたからである。
「痛えな、おい」
 二人連れの男の一方が、十四郎を睨めつけていた。どちらも若く、派手な格
好をしている。顔つきを見れば一目で分かった。十四郎と似て非なる生き方を
選んだ連中だ。
 今はこういう生物に付き合いたい気分ではない。が、同時に、このまま踵を
返して立ち去れる気分でもなかった。混乱の余韻が残っている。ここで退くこ
とは、十四郎を阻む壁から逃げることだと思えた。
 退くべきは十四郎ではない。壁だ。壁が退かないのなら、叩いて砕くまで。
十四郎は鎧のように纏った敵意を、更に濃いものにした。
「……止せ、武井」
 一方が、それを敏感に感じ取ったらしい。わざとらしく肩を押さえている男
の腕を掴んで引き、立ち去るよう促す。しかし武井と呼ばれた男は、鈍感なの
かそれとも余程腕っ節に自信があるのか、十四郎の様相を全く気にかけていな
い。
「何でだよ。こいつが悪いんだぜ。慰謝料貰わねえと。当然だろ」
「ちょっとぶつかっただけだろ。怪我したわけでもねえし」
「したよ。あー痛えすっげえ痛え死ぬー。十万くらいは治療費掛かりそうな怪
我だ。おい、払えよ。なー」
「やめろって……」
 口調の強弱とは裏腹に、制止している男の方が力は強いようだった。ぎゃあ
ぎゃあ喚き立てる男を無理矢理引き摺って、十四郎から離れていく。
 追おうと思えば簡単だったろう。そしてその辺の路地裏で殴り倒し財布を奪
って自分の懐を潤すことも難しくはなかったに違いない。ストレス解消にもな
ったかもしれない。だがその時、十四郎は、それどころではなかった。
(……………………………………………………………………………………!?)
 天啓、という言葉がある。
 天の声。つまりは知性ではない何かが全ての論理と無縁なところで真理に至
ることを言う。人知に依らないことから、人知を超越した何者かの示唆である
と、この言葉を作った者は考えたのだろう。その真偽はさて置くとして、十四
郎に訪れたそれは天啓としか呼びようのないものだった。
 ――ちょっとぶつかっただけだろ。怪我したわけでもねえし。
 ――したよ。あー痛えすっげえ痛え死ぬー。
 二人の会話。聞き流してしまえばそれまでだった筈だ。だが引っ掛かった。
十四郎の右耳から左耳へ抜けていく前に、脳の何処かとその言葉は触れたのだ。
 ――ちょっとぶつかっただけで死ぬ。
 何が引っ掛かったのか、分からない。答えが出てこない。だが、十四郎が神
だか悪魔だか気紛れなダイスの目だかに導かれてやって来たこの場所は、真実
に極めて近い。根拠もなくそう感じる。あと少し、あと幾つかの分岐路を正し
く進めばゴールに至る。錯覚かもしれない。だが十四郎は信じた。一週間前、
早由李との試合の最中で信じたように。例え錯覚であっても、自分の感覚は常
に真実を掴むと。
 既に二人組の姿は視界の何処にもない。しかし十四郎は立ち止まり続けた。
通行人が奇異の目を向けてくるのも気に掛けない。脳だけでなく、全身の細胞
全てで思考する。解答までの僅かな距離、これは知性でしか踏破出来ない距離
だ。一歩、一歩、慎重に進まねばならない。焦ればせっかく手にしかけた答え
が泡と消える。
 ――ちょっとぶつかっただけで。
 ――怪我。
 ――死。
 ――正眼。
 ――痕跡。
 ――倒れたところを上から斬殺。
 ――上段には通じず。
 ――正眼に。
 ――ちょっとぶつかっただけで。
 ――倒して上から……

「……………………ああ」

 十四郎は、真実を掴んだことを確信した。
 そして、

「…………なんだ…………」

 ひどく、興醒めした。


22:32 Created
22:32 *** gama has joined channel #tribe
22:32 14th>よ。
22:33 gama>おう。急ぎの用ってのは?
22:33 14th>俺を殺したいんじゃないかと思って。
22:35 gama>What?
22:35 14th>いい殺し屋を紹介出来るんだが。
22:36 gama>ああ、そゆことね。オーライオーライ。
22:37 gama>そうだな。前々からお前は気に入らなかった。お前を仕留められる
殺し屋がいるなら是非教えて欲しいね。つっても、頼む金がないが。
22:37 14th>出してやるよ。
22:38 gama>気前がいいな(笑) 殺し屋に、何か伝えておくこととかは?
22:38 14th>ひとつ。
22:38 gama>何?
22:39 14th>比企十四郎は、実戦では正眼からの技を使う、と。
22:39 gama>OK。確かに引き受けた。
22:39 *** gama has left


 東京の夜空には星がいない。
 いつからそうだったのか、十四郎は知らない。最初からではなかったのだろ
う。星は少しずつ東京の空から去っていったのだろうか。それともある時を境
に突然消失したのか。それも十四郎の知るところではない。
 星は天意を表すると信じる者達がいる。占星術師がそうだ。また、星は神そ
のものであると語る者もいる。どちらであれ、星が神の意のもとにあるのなら
ば、その姿を見ることが出来ないこの街は、神に見捨てられた地だということ
か。あるいは、この街の人々が神を捨てたために、星々は去っていったのか。
どちらかは知らないが、どちらでも同じことだ。この街に神の光はない――
 ……下らん。
 三流詩人が抱えていそうなペシミズムに毒された想念を、十四郎は頭から追
い払った。まったく、下らない。だが仕方のないことでもあった。十四郎はこ
れから下らない人間に会い、そいつが重ねてきた下らないことを終わらせる為
に、下らないことをするのだから。頭の中身が下らなくなるのも当然と言えば
当然だ。
 月明かりも差し込まない路地裏を、下らない想いに支配されながら、下らな
さと絶縁するためだけに、十四郎は重い足を引き摺るようにして歩く。
 感動が欲しい、と十四郎は思った。肉体を内から突き動かすエネルギー。怒
りでも憎しみでも、恐怖でも構わない。それは単純な筋力とは違う、根源的な
力の塊を引き出すための鍵になる。戦う時には必要なものだ。いつもなら戦い
を前にすれば自然と湧いてくるものだが、今日は自分で探して無理矢理引っ張
り出さねば現れそうになかった。
(早由李)
 彼女のことを思う。
 棘の存在を感じた。心に突き立った一本の棘。可愛い後輩と言えばそうだっ
た。自分にくっついて回るのも決して不快ではなかった。だがそれだけだ。恋
だの愛だのといった、言葉で語ろうとすれば三文小説にならざるを得ないよう
な情を抱いていたわけではない。それは早由李も同じだったろう。武運つたな
く敗れ死んだ道場仲間、彼女のことはその一言で片付けられる。だが、棘はあ
るのだ。早由李のことを思うたび棘の存在を感じ痛みを覚える。心の片隅に突
き刺さっている。犯人をこの手で殺さねば、この棘は抜けはしない。
(そう言えば、カレーを食い損ねたな)
 思い出す。早由李が殺された日。あの晩は飯どころではなくなってしまった。
空腹感を思い起こし、僅かに苛立ちが湧く。
 大した感動ではない。だが、今日はこの程度で充分だろう。そもそも、まと
もな戦いになるかどうかも知れたものではないのだ。
(せめて、これ以上は落胆させてくれるなよ。謎の暗殺剣士殿……)
 声にはせずそう呟き、十四郎は足を止めた。
 闇を切り取ったかのような、黒い人影が前方に現れている。黒い長袖のシャ
ツ、黒いトレパン。顔の目から下に巻き付けた黒い布。腰に差した黒鞘から引
き抜いた刀だけが、別世界のもののような白い輝きを放っている。
「天心館の比企十四郎」
 始末屋が、覆面の下からくぐもった声を洩らした。何も知らずにこの場へ居
合わせていたら、不気味さに身震いの一つもしたかもしれない。だが今の十四
郎には、悪趣味なギミックの一つでしかなかった。開けば罵声を吐き出しそう
になる口を押さえつけ、無言を通す。
「抜け」
 離れた間合いから、剣先を突きつけて促す始末屋。はいはい、と呟きたい気
持ちで十四郎は肩に下げた刀を抜いた。付き合ってやるよ、これで最後なんだ
からな。お前にとっては永遠に。俺にとっては、願わくば永遠に。金輪際こん
な茶番は御免だが、どうせきっとまた何処かで見ることになるのだろう。お前
とは別の、お前と同じようなモノを。
 銀色の刃が、街灯の光を照り返して朧に浮かび上がる。それを待っていたか
のように、始末屋が動きを起こした。
 じりじり、と正眼に構えられた始末屋の剣が近寄ってくる。持ち主の期待に
満ちた内心を表してか、その切っ先は小刻みに震えていた。一方、十四郎の刀
は微動だにしない。こちらも主人の醒めた心情を忠実に語っている。
 互いに正眼に構えた刀が、あと一歩で触れ合うという距離にまで近付いた。
その一歩を、始末屋は跳ねるような足運びで詰め、ぱしん、と剣先を触れさせ
てくる。
 剣を弾いて隙を作らせようとする動きではない。ただ触れただけだ。しかし
それだけで、始末屋の双眸に喜悦が満ちる。勝利を確信したかの如く。
 空白の時間。
 数秒であったか、数瞬であったのか。犯人の歓喜が疑問に、そして驚愕へと
変わるのを見て、十四郎は小さく溜息をついた。唾でも吐くかのように一言を
ぶつける。
「竹光だよ」
 一瞬を置いて、覆面の下で始末屋が大きく口を開けたのが分かった。悲鳴を
上げかけたのだろうが、流石にそれは自制したらしい。だが次の刹那、始末屋
は刀を放り捨て、くるりと背を向けた。
(馬鹿め……)
 更に上乗せされた失望に、舌打ちする。『それ』が通じずとも、真剣持ちが
竹光相手に逃げねばならない道理があるか。そんな判断もつかなくなるほど、
その下らない芸に頼り切っていたのか。
 もういいよ。お前は死ね。
 その言葉を、口にはしない。脅迫のつもりはなく、命乞いを受け入れる気も
ないのなら、殺意を言葉にする必要は何処にもないのだから。
 右手の竹光を落とすのと同時に左手を伸ばし、足をもつれさせながら駆け出
そうとしていた始末屋の襟首を掴んで力任せに引き寄せる。そしてジャケット
の裏からナイフを逆手で抜くと、今度こそ発せられかけた悲鳴が生まれる前に、
喉を右から左へ貫き通した。
 ……かっ。
 そんな声を洩らし、一度震えて、始末屋の身体が力を失う。ショック死した
ようだった。もったいない、と思う。こんな奴には、失血死か窒息死か、もっ
と長く苦しんだ末の死が与えられるべきだと望んでいたのに。何の為に喉を刺
したのやら。
 手を放すと、始末屋はごとりと音を立てて地に転がった。投げ出された手に、
黒い手袋が見える。気付いたのはその時が初めてだったが、想定していたもの
ではあった。材質は調べずとも分かる。ゴム製だろう。
 視線を横に流し、始末屋が使っていた刀を眺める。刀身には何の変哲もない。
ただ柄に、スイッチと思しき小さな装置があった。
 ――下らない。
 嘆息すると、十四郎はナイフの血糊を拭き取り、鞘に納めた。
 竹の刀を拾い、背を向けて歩き出す。


 痛みがあった。
 棘はまだ、十四郎の胸に突き立っている。




                                (完)



「エイケン」の、胸をぷよんぷよんさせまくりな人外ホルスタイン雌家畜共を 見るといつも思います。「安直で低劣な手段でウケを狙いよって。下衆が」と。 そしてこうも思います。んなこと言いながら男性的器官を反応させている自分 は、もはや人生的に敗者チックなのではなかろうか、と。  なんて感じに廃都の雰囲気に浸ってくれていたかもしれない読者諸氏の気分 を根こそぎ破壊して、挨拶に代えさせて頂きます。  一応不定期連載という形になりますので、長いお付き合いになるかもしれま せん。初見の方も既知の方も、どーぞよろしく。  本「秘剣」は、自分がいずれ書くつもりの長編小説「ブレイドシティ」(仮) の、外伝的短編第一作です。ブレイドシティという作品でどういったものを書 こうとしているのか、それが伝わるような一編にしたつもりなんですが。どん なもんでしょーか。  このような短編をあと何作か書いて、自分自身のレベルを上げつつ世界を練 り込んでから、本編に手をつけようと思っています。野望の成就を目指して。 「ブレードランナー」「ブレード/刀」「ブレイド」に、このブレイドシティ を加え、四大ブレードと呼ばれるために。  何? 無理? 夢見てんな馬鹿? ふっ、未来は誰にも分からんのだ。見て ろよこの凡人共め、将来俺がメジャーになったらスラム街で物乞いとかしてる だろう貴様らの前でマンガ肉とか貪り食ってやるからな!! へーんだばーか ばーか!!  馬鹿を見るのは俺って方に百円。  意見感想等々は、欲しいのでいっぱいください。いっぱい。掲示板なり下記 のメアドなりに。  つーか反応全然なかったらコレ削除して忘却して何事もなかったよーなツラ して今後の人生生きます。寂しすぎるので。ウサギさんは死ぬのです。  そーなった後で「そー言えばブレイドシティの第二話はどーなったんすか」 とか言ってくる奴がいたら貴様の命はあと三秒。  スペシャルサンクス。  本作品の改訂にあたって有意義な意見を下さった、とーるさん、るーん、ジ ンさん、久々野御大将、XY−MENさん、ほか多数の方々。  及び、この作品に発表の場を提供してくれたbの字。  本当に、有難う御座いました。  んでは、今回はこれにて。  おそらくは、また近いうちに――つーか第二話は既に完成してんですが―― ここで会いましょー。 (01/06/30 ハイドラント) E−MAIL
戻る