第三章観音霊場における社会福祉事業の歴史

1.       西国三十三観音の種類とご利益

    観音の種類

西国三十三観音霊場のご本尊として祀られている観世音菩薩は
原則七観音(下図)に限定されている。
それぞれの観音について簡単に説明する

聖観音 十一面観音 不空羂索観音 千手観音 馬頭観音 如意輪観音 准胝観音

         

 1  聖(しょう)観音 (一切の苦難を消滅除去する。)

 聖観音は日本で一番古くから信仰されている観音で正観音とも書き、いわば観音の総家とも称すべき観音である。一尊独立されている場合と無量寿経による阿弥陀如来の脇侍として、姿勢菩薩と常に随従して衆生を迎える観音菩薩とがある。そのお姿は頭に宝冠をいただき、中に化仏が安置されている。肩から腕へかけて天衣をまとい、肩から脇の下へ斜めにかけて、略縛という勲章の緩のようなものを飾り腰に裾を巻き、種々の瓔珞で装身し半裸体のお姿である。そして左手には蕾の蓮華を持ち、右手でその蓮華の弁の一片を開かんとしていられる。右手を仏者、左手は衆生の煩悩の意をあらわして、右手で仏が開こうとされている形を現してある。また片手に水瓶をもち、これを片手の掌の上に垂らしたお姿は、水瓶内の慈悲の甘露水を衆生にあまねき施す姿に形どっている。悟りきれない人々の煩悩を開かせようとする仏心を示している。

 2   十一面観音 (福財を授かり、無病息災)

 十種の誓願をもつ、観音の変化身で、その誓願を示すために十一面を具えた姿に現わされている。正面三面が菩薩面で慈悲静寂の相、左三面が忿怒の瞋面、右三面が菩薩面に似ているが白い利芽が出ている面、後方の一面が暴悪の相の笑面、頂上の一面が如来面となっており。各々の面の頭に化仏が安置されている。左手は蓮華を挿した水瓶を持ち、右手は施無畏印をなす。その功徳は十種の勝利に見られる如く生活に必要な物資は豊富に恵まれ、生活を脅かす自然の災害や、他人の迫害逃れ、無病息災で死後は阿弥陀の浄土に往生出来とされている。
十種の勝利は

1  諸病の苦を離れる   2  如来の愛撫を蒙る  3 財宝を獲得できる
4  怨敵も危害を加えない 5  国王の慰問を受ける 6  毒蛇寒熱の苦を免れる
7  刀杖の害を受けることがない 8  水に溺れて死ぬことがない
9  火に焼かれることがない 10 天命を全うすることができると。
すべての憂いや、悩み、病苦、悪心を取り除くとされている。

 3  不空羂索観音 (鹿皮観音)  (四摂の法で衆生を摂化)

不空羂索観音の羂は、鳥や獣を捕らえる網こことであり、索は魚を釣る糸のことである。
観世音菩薩はその大慈悲から、四摂法
(布施・愛語・利行・同事)という方便の網を、煩悩の山野に張り巡らして、迷える衆生を捕え、生死の輪廻の苦海に糸を垂れて沈倫している衆生を索の糸で釣って救って下さる。しかも、世間で用いられている羂索は、捕りそこないがあるが、この観音の羂索は失敗がなく空でないゆえに不空と名づけられているという。次の現世利益があると説かれている。

1 無病息災  2 業病を除き 3美人となる 4衆人に敬愛される 5諸根を蜜護し
6多くの財を獲る 7財産を損せぬ 8事業を成就す 9種植害せられず
10精気を奪われず 11有精に尊重され 12怨じょうを畏れず 13人非人等も害する能わず
14煩悩現行せず等々があります。

4 )千手観音 (諸願成就・産生平穏)

  詳しくは、千手千眼観世音菩薩、千眼千臂観世音菩薩と称し、千の慈眼と千の慈手を具備して一切の衆生のために、地獄の苦悩を救済し、諸願成就、産業平穏を司る千という数は沢山、無数の意味をもつもので、観音の救済の手の及ぶ範囲が広大で無量であることを現しているものである。全ての修生に利益と安楽を与える観音で、この世のあらゆる出来事を見通し、救済の手を差しのべるという請願もつことから、慈悲の心が無限にあることを示している。四十の手の意味は、化仏手・羂索手・施無畏手・白払手・榜棑手等々夫々の意味を持っていて、他の観世音菩薩の御手の意味にも通じている。

5 )馬頭観音  (六道能化の畜生を救済)   

 観世音菩薩は慈悲の尊として、柔和なお姿が多いが、馬頭観音は怖ろしい姿の忿怒の相をしていられる。これは性根の悪い不良の徒や、因果の道理を知らず仏法を誹謗し、五逆罪を犯す人など菩薩相の柔和なお姿では教化が出来ない。ゆえに威力を持つ明王のような忿怒の相に変化して、大慈悲をもって救済されるため、頭上に特殊な徳を馬の形をかりて馬頭を象徴して示している。その徳は噉食・専念・迅速の三威徳を示している。 諸々の悪を食いつぶし、生死の全ての苦しみを断つといわれている。戦争や災害の除去にも功徳を示している。

6 如意輪観音  (富貴資材・福徳・知能皆成就)

 如意は如意宝珠の意味で、欲しいと思うものはどんなものでも生む珠の意の事で ある。輪は法輪の事であり、如意輪観音は、如意宝珠の三昧に住して法輪を転じて、衆生の迷いを墔破して衆生に利益を与える変化観音である。 人間社会では富貴財宝・権力勢威・息災長寿が何よりの宝とされているが、出家修道の世界では、無上菩提に達し仏徳を体得して、それによって社会を救済する事が宝とされている。即ち福・智の二徳を持って、富貴・資材・威徳皆成就し、福徳智能が意の如く満足させてくれるのである。 お姿は普通一面六臂像であるが、一面二・四・八・十・十二臂等がある。

 7 )准低観音  (除災・延命・求児・病気平癒)

准低観音は仏母准低、准低仏母、尊那仏母と仏母が付けて呼ばれており、又七倶低仏母、詳しくは七倶低仏母准低観音とも称せられている。准低は清浄を意味し、倶低は数量を数える語で、七倶低は七億などと、大量の意味を表し、この尊の功徳が広大無辺であることを形容したものである。災難を除く、寿命を長久ならしめる、子宝が欲しい、病気治癒、降雨等皆夫々寛大にして広大なご利益与えて下さる観音様とされている。
お姿は日本では一面八・十八臂の
二種類の像だけといって差し支え無いほど種類は少ない。