2.現代の西国三十三観音霊場の状況

@「現在の仏教社会福祉活動(観音霊場を含む)」

現代社会の状況並びにその特徴をまず考察するにあたって、車と飛行機に例えて、その特徴述べてみたいと思います。

 人と物を早く運ぶというスピード社会である。大量生産・大量消費・大量流通・大量廃棄の社会である。交通規制が必要であるように、規制・管理の社会である。車のドアを閉めると自分だけの世界に閉じこもるという自己中心の世界である。短時間の中に、大量の人間が移動する国際社会である。車・飛行機は機械であり、コンピューターによって制御される機械社会である。車は早く、遠くへ届けるという情報社会である。車は一定の人数より乗れないという核家族社会の象徴である。車と飛行機は運輸を容易にし、ヒト・モノの移動と連絡を早くする運輸・通信社会の象徴である。車と飛行機は“速く速く”モットーとし、速効性を追求するあまり、ストレス社会を生み出す社会である。

 車・飛行機を取り上げ、現代社会の特徴としたが、なんと言っても、モノ・カネを追求する競争社会である。

 競争社会の特徴として、人生・生活の精神的ゆとり・豊かさを失い、ストレスを大にする。競争に勝つことが必須の条件となり、自己中心と自己防衛という鎧で自分の身を包むことになる。重い鎧で自分の身を包めば包むほど、人間は自分の殻に閉じこもるというカタツムリ現象が生じる。生命の閉鎖性をもたらし、共生・共存の関係を希薄にし、共生社会の構築を困難にしております。

 いま私たちに求められていることは、身にまとった鎧を一人ひとりが脱ぎ捨てることであり、自分と他者との生命のつながりを大切にすることであります。一人ひとりが立ち止まって考え、お互いの命をよく見つめ、自分と他者の違いを尊厳と慈悲のまなざしでもって、認識することであろう。

 自己の意識が他者に向かい、自然に向かい、宇宙に向かって開けば開くほど、開かれた自分、開かれた他者との関係が増大する。自然と自分との命のつながりを覚え、太陽の光・水・空気・大地の恩恵を覚え、自然環境を大切にする。

 このような現代社会において、「生命こそ万人の力」(釈尊)をモットーに、共生社会をめざして、仏教社会福祉活動が実践されております。

 なかでも仏教の基本である慈悲の理念にもとづく救済活動の歴史は非常に古いもので、慈悲は福祉実践における普遍的な愛をあらわす仏教的解釈でもあります。現代社会に成立する社会事業・社会福祉は個人の自律にもとづく民主主義的な社会共同によって展開される生活支援システムであり、仏教社会活動はそうした自由にもとづく連帯を慈悲の実践に見出すことを通じて行われております。

 必然的に特定の困窮者への救済から、身体障害者への社会生活への復帰支援等、実践活動が拡大されております。

 第二次大戦後の我が国の社会福祉事業は、公的社会福祉制度が充実され、民間社会事業は、公的社会事業を補完・支援する補助的福祉機関となりました。しかし、公的社会事業の活動は民間社会事業への大幅な依存によって可能とされ、この民間社会事業は、とりわけ仏教社会福祉活動に多くよっているといっても過言ではない状況です。

 生活保護関係事業をみると、公的社会事業の性格からいいて、一般生活困窮者に対する保護・救済措置は、公的機関である福祉事務所が中心となって実施するのでありますが、その福祉事務所の専門的福祉活動を補完し支援する民間篤志家が民生委員であります。民生委員は「地域住民の側に立っての福祉機関への協力」という点で、地域社会の福祉的観察、よろず心配事相談、貧困家庭、問題家庭に対する相談や助言といった地域福祉に関する一切を担当する職責を持っておりますが、この民生委員の約10%を僧侶が占め、地方公務員として厚生保護行政事務を担当する寺院関係者も多く見られます。

 仏教社会福祉事業の歴史から見て、施薬・施療に関する救済活動は伝統を誇る事業でありますが、医療技術の高度化に伴い一寺院での経営が困難になり、現在は必ずしも盛んとはいえません。

 犯罪者の更正保護事業の管轄は法務省であり、保護観察制度として国家責任による事業となっておりますが、民間人は保護司として協力しています。この更正保護事業を推進する僧侶は非常に多く、さらに刑務教誨師、刑務所、少年院、少年鑑別所の指導教化職員、人権擁護委員などには寺院関係者が多く、合わせると数万人に達すると推定されております。

 仏教系老人ホームは全体の四割に当り、老人福祉事業は仏教社会事業の中心であります。高齢化社会の到来でこの方面の活躍が期待されております。しかし身体障害者や精薄者の福祉施設は、あまり多く見られません。

現代の仏教社会福祉事業のなかでもっとも広範囲に実施されているのが児童福祉事業であり、とりわけ、保育事業は活発であり、保育所は全体の25%を占めております。さらに、養護施設の運営も、全体の35%に達しており、また乳児院も見られます。その他に、教護施設、精神薄弱児施設、育児収容保護施設、ろう唖収容施設、肢体不自由児施設などの各種児童収容保護施設を運営する仏教社会福祉事業家も見られ、母子福祉事業や隣保事業も寺院で運営されているものを見ることができます

 観音霊場においては、老人ホーム・保育所など多くの寺院に設置されているのを見ましたが、その中でも、第六番札所壺阪寺において、その実践活動の顕著な姿を見ることが出来ました。浄瑠璃「壺阪寺縁起」でも有名な盲目の沢市とその妻お里の話ですが、沢市の眼病平癒を祈願し毎晩壺阪寺に詣出るお里の苦労を思んばかって、自分がいなくなればお里に苦労をかけずにすむと、沢市は谷に身を投げるのですが、それを嘆いてお里もその後を追います。そこに観音さまが現われ、二人を救い、沢市の目も治るという物語なのですが、それにあやかり、今も眼病平癒に全国から参拝者が訪れております。

 また、この寺では我が国ではじめての盲老人ホーム・盲人図書館を建設するなど、盲人のための福祉活動にも積極的に取組んでおります。